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[コメント] れいこいるか(2019/日)

阪神淡路大震災で悲劇に見舞われた方には、すでに多くの追悼がなされただろう。本作は取りこぼしを拾い集める。悲喜劇に見舞われた者を追悼する。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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武田暁は素晴らしいだろう。膣痙攣とは何という悲喜劇であることか。この冒頭のピンク映画、ナチュラルで平凡なポルノからはじめて加齢具合がリアルでとてもいい。眼鏡をかけ、老けメイク、失明に怯え、失明する。失明から回復するのは不自然だが許容される。ただ、これに詩的な解釈を施すのは作者の術中なのが明らかだから付き合う気がしないが。

震災後も、人々は他にもいろんな悲劇に見舞われているが、映画は明るい。不幸だけど陽気な人々を描いて『たまもの』『かえるのうた』の作者の方法論は一貫している。人がいい作風なのだ。大勢の登場人物がひしめくが、事故死する暴力亭主(彼も科白でフォローされた)以外、陰気な人物は登場しない。

武田が知らぬ娘を死んだ娘の名で呼ぶ水族館が見事なクライマックス。いるかのぬいぐるみの小物使いが素晴らしい。そしてウルトラセブン好きのひろしが、雨の震災追悼式にひとりで参加しているのが私的ベストショット。聖性についての意義深い視点があった。

白っぽい画面の統一に夢幻のニュアンスがある。笠松商店街、新開地アーケード上の公園、須磨水族館付き。居酒屋も素敵だし、ロケ地の卓球場も素敵だ。ツルカメツルカメと呟く老人も素敵だった。

(評価:★5)

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