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[コメント] 伊豆の娘たち(1945/日)

戦後はじめて映画館にかかった邦画の由。戦中は検閲で没になっていた、戦意高揚のやる気のなかった五所の松竹伝統結婚喜劇。笑えるし人情充実、そして何より水も滴る超美人女優四元百々生の記録として価値高い。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







四元百々生(よつもと・ももせ)は『かくて神風は吹く』というトンデモ映画と本作しかキャリアが確認できない。いずれも五所関係で、前者は戦意高揚のやる気のなかった五所がロミオとジュリエット風の大ロマンスにしようとして脱稿できず仕事を降ろされ、後者は未公開。これでは俳優業が厭になっても仕方あるまいと思われるが、実際はどんな人生の人だったのだろう。本作は三浦光子との姉妹を阿吽の呼吸で巧みに演じている。

父の河村黎吉、姉の三浦、妹の四元の家族が夜の食卓囲んで、郵便貯金が満期だとたまの酒呑んで会話している件に、とても充実した時間が流れている。リアリズムに切り返しで撮り続けて、折みてバストショットで人物抜く手法が一貫していて流暢。世話焼きの伯母さん役の桑野通子がまた凛々しくて別嬪。

下宿人佐分利信が好きとも何とも云えずにぐちゅぐちゅしている姉の三浦の代わりに、姉ちゃん好きなのよと父の河村に云って泣き出す妹の四元。三浦は真っ青、という展開が実に麗しい。そんなこと知らずに飯田蝶子らと一緒に、部長の笠智衆の娘と佐分利を引っ付けようと画策していた河村は弱ってしまい、飯田から逃げるのだが電信柱の影に隠れて捕まってしまう。「部長さんに合わす顔がないじゃないの」「まあしばらくは外を歩かないように」の大笑い。

結局、三浦と佐分利は中盤に畦で並んで座っている以外は特に会話もなく、周りの気遣いで結婚に至る。昔の結婚だなあの感慨が残る。佐分利の爪噛む癖の連鎖もいい細部。物資不足からか16ミリ撮影らしい。ラストは笛吹く四元の凛々しい車掌さん。

(評価:★4)

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