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[コメント] 蛇の穴(1948/米)

肖像画を背に医師が患者の向こうにいる観客に講釈を垂れる、という権威主義的な構図自体が抑圧的で芳しくない。その肖像がフロイトだろうがヒトラーだろうが構造として同じことだ。こんな画はフロイト自身が嫌悪しただろう。『恐怖の精神病院』の方がずっと知的。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







素朴な善意は感じられるのだけれど、だからこそハリウッド的なユーモアと精神病者の組合せは、観ていて辛いものがある。近親者に精神病者のいない幸運な人だけ笑ってください、といったところか。なんというダンスパーティ。

美点はデ・ハヴィランドの症状だろうか。記憶が飛ぶ、という描写の連続は症例として興味深かった。冒頭、どこにいるか判らず、呼ばれてついていけば精神病院という描写、「結婚しているのに夫がいるのかい」「確かに変ね」。その夫は偽物のように感じられる、というのは統合失調症ならではの症状。ドアの位置がいつも違う、という一言が印象的だった。

電気療法は当時どういう位置づけなのだろう。『カッコーの巣の上で』で有名なロボトミーとの類縁性はどうだったのだろう。もちろん精神分析の手法ではない。第33号病棟の重度の精神病患者も、フロイト的には精神分析の対象ではない。だから精神分析医のキック先生(レオ・ゲン)の範疇ではないはずであるが、アメリカの受容では併用されたということだろうか。子供の頃の抑圧体験描写は通俗で、これらを理解しただけでデ・ハヴィランドすっかり治っているラストも簡単過ぎるだろう。

その33号病棟、踊る人唄う人大統領夫人、重病患者は正にそういうものなのだろうが、咎められるべきはあのような「蛇の穴」の雑居密集病棟に押し込めて放置しておく病院側であり、映画がそこに批判の矛先を向けないのは全く合点が行かない。この点で告発のある『恐怖の精神病院』(46)の方がずっと知的な映画だ。あと、ひどい看護師の件はこれも原作通りなのだろうがひどく通俗。

(評価:★2)

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