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[コメント] 夜の河(1956/日)

見処はカラー撮影で、吊るされて画面を覆う原色の染物が緩やかにはためくタッチはアンゲロプロスを彷彿とさせる鮮やかさ。様々な着物の柄も豚に真珠ながら愉しめた。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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はためく染物が町中で振られる赤旗に重ねられるのもアンゲロプロスっぽい。映画は冒頭で不当残業を理由に辞める職人に向けて東野英治郎に「憲法改正だ」と叫ばせる一方、最後に山本富士子にデモ隊への共感を示させる。しかし、斜陽な染物業界を高級志向で切り抜ける物語に、労働者の権利擁護のテーマがある訳でもなく、中途半端な印象に留まる。

メロドラマの本筋も大したことがない。中盤の富士子のラブ・アタックは微笑ましくて感じいいのだが、子連れの上原謙を見て彼に奥さんがいないと即断する理由が的確に示されないため、彼女が後に奥さんの存在を知って落ち込むのは身勝手というものだとしか思えない。なんでこれでキネ旬年間2位なのだろう。

川崎敬三はなぜそこにいるのかに至っては意味不明。画家である彼の前衛美術をカラーで撮る方便だったと思えばやっと理解できる処で、染物業も赤いショウジョウバエも同様の設定。結局やりたかったのは全てカラー撮影、話はどうでもよし、と云う処じゃないのだろうか。

ベストショットはやはり、ふたりが旅館で大文字の赤い明かりのなかで絡む件。ふたりを手引きする女将の、まあいいじゃありませんかの手練手管(最後は蛾を追い出すとか云って部屋の灯りを切ってしまう)が印象に残った。京の奥座敷は何とエロいのだろう。

(評価:★3)

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