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[コメント] 千曲川絶唱(1967/日)

無理筋の泣かせだが、豊田版の上質な日活アクションとでも云うべき映像はとても充実している。特にトラックの汽車併走の件の力感が圧倒的、本邦劇映画史に刻まれるべき名シーンだ。『天国と地獄』のこだま号より凄い。ここだけで大満足。
寒山

**ネタバレ注意**
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誰でも知っているように、不治の病の男に惚れる女看護師、とは無理筋でリアルではない。患者を恋愛対象にするのは看護師の職業倫理に抵触すらするだろう。これをリアルに描くには特別の何かが必要だが、本作はこれを欠いており、ディテールは通り一遍、よくある失敗作コースを辿る。末期症状の北大路欣也に道路普請させていいものかもよく判らないし、ベタな詩を読ませるのも実話ならともかくフィクションではキツ過ぎる。

それでも本作が優れているのはホン以外の処が抜きん出ているからだ。難病ものに異例なことに映画は主に屋外で展開され、この撮影が素晴らしい。北大路の井戸落下や鶏小屋へのトラック突入は力感溢れ(よそ見運転が大いにヒヤヒヤさせる)、星由里子との路上の放浪はこの巨匠にしてヌーヴェルヴァーグ・タッチを消化した鮮やかさがある。特に星がデッキに乗った汽車に併走する北大路のトラックの件は、両名をワンフレームに収めて抜群、編集も抜群だった。ラストの星による遺骨散布も遠景だけでドライに決めて美しい。

俳優では特にいしだあゆみがいい。アイドル歌手なのに歪な性格の難病者を演じて泥まみれで怒気迫る。編集で相当カットされているのだろう、最期の自殺など熟度なく飛ばされて彼女に気の毒だった。熱演の北大路も好感で萬屋錦之助に見える瞬間があった。星は絶叫芝居系で単純な役処であり、良さが出しにくかっただろうが、開き直って見せる笑顔が素敵だった(パチンコが上手いのがいい細部)。女優に脱がせるのが好きな豊田だが、最後はやり過ぎ気味、あれ以上の露出だとぶち壊しになっただろう。胸出さずに収めてくれてホッとした(なお、星は北大路に頼まれて脱ぐ)。

なお、白血病は被爆しないと罹患しない、みたいな描き方は単純に間違い。当時はこれが通念だったのかという発見はある。ただ、自分の名誉心のために隠密裏に治療しようとしたり、本人の承諾なしに記者に報告したりする平幹二郎の医師を、制作者は医者のエゴと批判しているのであり、ここを読み違えては可哀想だ。本来は発見と同時に広島の病院に移送しなければならない。当たり前だろう。医師界にはこういう体質があるとの松山らしい告発になっている。

(評価:★5)

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