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[コメント] しとやかな獣(1962/日)

金に細かい新藤色の勝った作品で、戦後とともにどんどん煮詰まり行く彼の閉塞感の優れた中間報告の趣。続編は『絞殺』か。
寒山

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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山岡久乃の役は明らかに乙羽信子がイメージされているが、山岡の起用はとてもいい変化球になっている。新藤らしく能舞台ですよと冒頭から宣誓されている作品(『悲しみは女だけに』や『鉄輪』も想起される。三度出てくる無機質な階段のセットは「橋懸かり」に相当するのだろう)であるが、能らしい亡霊の情念はどこにもなく、戦争で死に損なった伊藤雄之助の、情念など殺してしまったアイロニカルな佇まいが逆説的に捉えられる。

彼は息子の川畑愛光に語る。「わしの人格を世の中は許さないんだ」「世間は戦争の泡がお前たちをこしらえたように思っとるんだ。お前たちの年代の者が酷いことをやっても非難する傍ら必ずどこかで味方しているんだ。第二次世界大戦後、世界は若さに寛大過ぎる。その代わりわしたちには厳しいよ」「お父様は世の中から痛めつけられ過ぎたんですよ」と山岡がフォローする(彼女の科白は全て紋切型だ)。

これらは狭義には、監獄出の戦犯が世の中支配した戦後への皮肉であろうが、これに留まらず戦中世代の屈折を語って広がりがある。死にぞこないの余生と割り切ってエコノミック・アニマル化した彼等のエートスの露骨なまでの詳述。そして「若さに寛大」を謳歌した太陽族世代も親たちと骨絡みですよと嫌味がたっぷり吐かれる。

アクション皆無につき川島喜劇らしさは余り見えず、上になったり下になったりするキャメラは私にはやや煩しい。しかし簡易なセットは秀逸で以降の予算不足な邦画の方向性を示した印象、アパートだけで映画つくってしまうピンク映画の先駆けな具合。家具の間から覗く顔という構図の連発もこの印象を強めている。西向きの窓、夕暮れから夜に至る光線の加減が繊細に捉えられ、真っ赤な夕焼けや雨含みな藍色の空の画が演劇的で美しく、浜田ゆう子の倦怠ありありなバンプ女優振りも愉しい。

高松英郎が硬すぎるのが玉に瑕、若尾文子もやや収まりが悪い(この大女優は脇に回ると目立ちすぎる)が些細なことだ。船越英二の自殺の件は、窓の外を落下する彼を家族が見送る、ぐらいの処理がブラックコメディとしては常道で笑いも取れるだろうに、あえてこれを撮らず雨中の屋上に佇む船越を延々捉えるカットに製作者の倫理観があるのだと感じる。ベストショットは当然、船越の自殺を報告せず呑みこむラストの山岡のアップ。彼女が見返すのは寝転んで新聞読む川端とトランプ占いする浜田のあぶく銭掴んで暇つぶしな人生。戦後は余りにも煮詰まっている。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)青山実花[*] ゑぎ ぽんしゅう[*]

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