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[コメント] 男はつらいよ ぼくの伯父さん(1989/日)

頬のこけた寅に渡世人の侘しさが滲んでいる。この顔を撮るだけでもシリーズ継続の意味があった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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前田吟吉岡秀隆の親子喧嘩の話としてよく纏まった小品。寅と満男の関係に味がある。レヴィ=ストロースによればオジとオイの関係を「冗談関係」と云う地域(どこだか忘れました)がある。家庭内ではタブーの甥の恋愛話を聞くのは伯父さんの役目だ。核家族化によって失われたのはこういう無縁慮な親戚でもあるだろう。それを知らない博こそ無知なのだ、という批評が読める。

寅を助演にするのも満男の進学話も過去作で準備されているから違和感ない。後藤久美子も好印象。話は弱いが尾藤イサオの好演に助けられている。ラスト、階段のうえで満男を待っている彼女のフルショットがいい。ゴクミが家に来たので満男が外出を止めるというギャグは寅のパロディで、次回以降も継続される。途中のトレンディなBGMは徳永英明か。その後に笹野高史のホモおじさんの件が続くものだから、中性的な歌声も一緒に茶化されているように思える。バイク転倒のスタントは上等。

ベストショットは収束で、北風吹くなか公衆電話をかける寅。渥美清は自信の老いを隠さない。頬はこけ、顔がひとまわり小さくなったように見え、ドキッとしてしまう。柴又の大騒ぎとの対照、続く誰もいない駅舎の暗がりに声をかけるシーンは強烈で、凄味がある。渥美が渡世人の侘しさをついに体現できる年齢に至ったのだとすれば、それだけでもシリーズを続けている意味がある。ただ、体はまだキレている。冒頭の電車におけるイッセー尾形の老人との寸劇がいい。寅の体張ったギャグはこれがもう見収め。

(評価:★4)

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