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[コメント] 疑惑(1982/日)

外連味たっぷりの女の戦争の一方で仲谷昇他が競い合う男の情けなさもとても充実している。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







判っちゃいるけどやめられない仲谷昇の情けなさがもう素晴らしいのだが、他にも弁護降りる丹波哲郎村松達雄から左遷に終わる柄本明まで、いろんなタイプの情けない男が処狭しと並んでいて、岩下志麻に法廷でぶった切られたりする。本当に清張って人間嫌い。岩下の法と正義まで返す刀で切ってしまい、底無し沼が完成している。

岩下が藁をもすがる具合で仲谷の息子を法廷で締め上げるクライマックス。下手すれば無理矢理感が出ちゃう処だと思うが実に見事に着地する。ただのどんでん返しではなく、桃井かおりは無罪だけどそれでも悪人だという二重底の気付きを一気に観客に与えるのが見事。ここは脚本の勝利(清張唯一の映画脚本。Wikiによれば最終稿は清張ベースではないが、辛口の収束の発案が清張のものだからクレジットされたとのこと。監督案では桃井は更生するらしく、それでは本作のインパクトから遠いものになっただろう)。

さらに効いているのが山田五十鈴で、彼女の背景にある『折鶴お千』以降の膨大な泥水稼業のフィルモグラフィーが、それらの集大成と云うべきさすがの名演で浮かび上がる。これは桃井かおりに遺伝されていると、この法廷の丁丁発止で明らかにされる。そしてラストの桃井の冷笑から、こんな女に誰がした、の嘆きが隠し味として伝わってくる。これは映画の勝利だろう。

(評価:★5)

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