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[コメント] 大地の子守歌(1976/日)

原田美枝子は不幸になるほど美しくなる(含『西鶴一代女』のネタバレ)。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







筋はよく判らない。原田美枝子のマスムラ好み(まさか原田が下手なのでは全然ない)な劇画タッチの造形はカスパー・ハウザーなどの野生児(『野性の少年』)を想起させるが、本能で動いているばかりではなく婆ちゃんの教えに従っているのだと徐々に判明する。インパクトのある描写は冒頭の婆ちゃんを埋葬しないでおく件と、土に聞けという婆ちゃんの言葉を思い出して土を食む件だろう。よくは判らないが狩猟的、アニミズム的な雰囲気が濃厚だ。これが徹底されたら興味深いものになっただろうに。

その彼女がお遍路さんになるのがよく判らない。仏教は厭離穢土であるから、「大地の子守歌」の土に聞けとは真逆の思想だろう。どこに改宗があった訳でもない。救ってくれた牧師の岡田英次(何で牧師が仲介するのかもよく判らない)に返礼として体を差し出そうとするのだから。

もちろん人はお遍路さんに、密教を信じたからなるのではなくて、何を信じていいか判らないから、何かを信じたいからなるのだろう。しかし原田個人の想いとは別に、作品の構造としてはアニミズムを密教が呑みこんでしまうという官僚的な図式がみえる。当時レヴィ=ストロースは本邦でももう流行しているはずで、そんな図式は古びていたはずだろうに、インテリのマスムラはどう思っていたのか。婆ちゃんの教えとはつまり何だったのか、よく判らないままに映画は終わる。

しかし、置屋もののジャンル映画として観れば、ひとつの極端を示して秀逸だろう。凄いのが折檻後のボロボロな原田に抱いてくれと云われて突然に嗜虐性を表す佐藤佑介。転落する女の初恋の男とはこういう鬼畜なのだろうというリアルがある。開き直って自分で髪切った原田のまあ美しいこと。彼女は不幸になるほど美しくなる。マスムラ演出の極地だろう。とりわけ半盲で夜半に船漕ぐ原田のカンテラに映し出される表情は神々しさに溢れていて、殆どゾッとした。本作は、美しさは罪というよくある冗談の残酷な適用例とも取れる。

鈴を与える田中絹代からは『西鶴一代女』が想起される。お遍路になる原田は尼僧になる絹代を踏襲しており、それなら作者の云いたかったのは上記の駄弁ではなく、ただシンプルに、(出自は正反対でも)おりんはもうひとりのお春だった、ということなのだろう。

(評価:★4)

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