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[コメント] 妖刀物語 花の吉原千人斬り(1960/日)

ひとつの極端な忠臣蔵であり、すでに任侠映画をも突き抜けているが、これら集団劇と比べるに千恵蔵は余りにも孤独だ。川遊びの件の撮影美術は邦画史上屈指と思われる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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原作は三世河竹新七「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」とのこと(タイトルにはなかったと思う)。千恵蔵の生来の痣、ご禁刀が運命に残酷に結びつく物語は仏教因果譚を漠然と想起させる。金が入用の折に雹が降り商売が駄目になる展開もそうだろう。しかし映画はそちら方面への突き詰めはなされない。原作がもっていた仏教的な教訓の物語を除いて不条理劇が残ったように見える。遊廓へ入れ上げるものではない、という教訓ではもちろんないだろう。

千恵蔵は自分の性愛と後継ぎをどうしようもなかった。しかし、蚕場には彼を尊敬する女がたくさんいて、番頭はそのひとり(山東昭子)と結ばれるのだから、別に千恵蔵もそうすりゃ良かっただろうに。時代的に番頭の自由恋愛が画期的だった、それには一旦商売が破綻する必要があった、ということで、だから二人の寂しい祝言の件が綿密に描写された、ということか。そこまで思いを致して、やっと納得できる物語ではある。

本作の見処はやはり圧倒的な撮影美術。冒頭の捨て子の青い衣から初めて、青とエメラルドグリーンで色調調整された画面が美しいし、遊廓ほか室内の構図は吐夢らしい力感に溢れる。なかでも序盤の川遊びの見合い(この風習自体も愉しい)が極上。中央舞台を微かな横移動で追いながら、前景後景を船が逆方向に進む、この画面の美しさはちょっと類例が思い浮かばない。ラストの桜吹雪も箆棒である。私のベストショットは、良重が遊廓女郎の野辺を見送る、草生した一本道。

俳優単位でも優れており、遊廓の理屈を体現する三島雅夫沢村貞子が素晴らしい。木村功高橋とよという意外な対決も剽軽でいい。石井輝男みたいな派手なタイトルはネタバレもいい処、制作者がつけたとは思われず、この時代から煽情的なタイトルの要請が外部からあったのだろうか。殺陣は途中で終わるのだが、あれから計千人もぶった斬ったことになる訳で、さすがご禁刀ではある。

(評価:★4)

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