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[コメント] 戦争と青春(1991/日)

戦争体験とはこのように語りにくく、多くは墓場へ持っていかれたのだろう。町角毎に本作のような悲劇があったに違いないのに。井川比佐志とともにそう思わされる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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無言の抗議を投票で示す人はいなくなり、大日本帝国は繰り返されるのだろう。

これは奈良岡朋子さんの秀作であり、彼女が最期に路上で縦に倒れるのは今井印のショットだった。好戦映画撮った懺悔を最後まで続けた今井正は立派だった。工藤夕貴はもう、今井の孫娘のように撮られていて、ひたすら可愛い。回想になると引っ込むのかと恐れたが二役と判明してホッとした(現代ではソバージュなのは高校生らしからず、これは戦時と区分するための手法だろうが、他の高校生が大人し過ぎるので浮いている。どうでもいい細部だが)。

照明の遊びが何か所もあり、特に病院の屋上、焼けるような赤い夕焼け、蛍のような緑色の街灯とも趣旨を踏まえたうえで美しい色が出ている。ただ、東京大空襲の再現のセット炎上(工藤の頭に引火したので有名)でもこの処理はされているのだが、炎の迫力を欠いた憾みはある。前後のモノクロ撮影は全盛期のように美しい。窓を開けたら強風で部屋の灯が前後に揺れるショット、焼け跡の路上にふたり佇むショット。うろたえて屋根に上った弟に赤ん坊渡す件など、何していいのか訳判らなかっただろう。気の毒でならない。

日本で徴兵遺棄者の話は珍しい(丸谷才一「笹まくら」ぐらいしか思い浮かばない)。戦時中の北海道炭鉱が舞台になるのは貴重、ここへ潜り込みコリアン助けて誰何されて逃げて射殺の佐野圭亮。こういう人物はたくさんいただろうに。

冒頭のあばれ神輿とか、宿題のレポートとか、工藤の体育館での舞踏とか、終盤にだらだら描写されそうな件をバッサリ切っている。本作は文化映画に似ているが、下手糞な文化映画なら必ずやっちゃうだろう蛇足を回避するエコノミーはさすが。しかし技術的なことは比較的どうでもいい、文化映画でいいから、町角毎の戦災が記録されてほしいものだ。もう時間切れなんだろう。クラウドファンディングのはしりのような寄付者が末尾に記載されており、杉葉子、中原ひとみ、吉永小百合、長山藍子の名前も見られた。

(評価:★4)

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