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[コメント] 十月(1928/露)

スタンバーグの豪胆とジガ・ヴェルトフの前衛が共存するハイテンションが共振するのは1989年の東欧民主化革命、という歴史の皮肉の丁寧な記録。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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歴史再現映画につき物語を語る制約から相当に解放されており、これはエイゼンシュタインの方法にとって好ましいものだったのじゃないだろうか。画面の強度を積み重ねる手法はジガ・ヴェルトフと重なる。

ナポレオンからお多福まで登場するオブジェ連発はつまり偶像批判なのだろう(ユーモアとして使われる件も多い)。ぶっ倒されるアレクサンドル皇帝像(これなど東欧革命の画そのもの)が逆回転で元に戻る件や、臨時政府連中が逃亡する自動車のアメリカ女神像で明確にされる(エイゼンシュタインはレーニンの偶像まで批判した、と云われるが、私の観たフィルムでは確認できなかった)。

その他、汽車の霧笛や旗やガス灯、顔アップの連発でテンションを高める方法は記号化されておりフォルマリズムの典型で、そのテンションの高さは驚異的。字幕のリフレインも同様で、ゴダールに相当の影響(パロディ元)を与えているのが見て取れる。スタンバーグを想起させる夜の霧連発も素晴らしい。一番すごいなと思ったのは、いきりたつひとりの婦人突撃隊員を三カットに分割して示す件で、やたら格好いい。

跳ね橋で逆さ吊りにされる馬は『アンダルシアの犬』(同年作)との呼応関係を感じる。直接にはどうなのだろう。冒頭の有名な独ソ戦停戦の件だけは不思議と撮影が平凡、字幕もなくて知らない人は判り難かろう(帽子の種類で区分される)。音楽版でのショスタコーヴィチはテンションを更に高めているが、好みは分かれるだろう。

しかしまあ、臨時政府の死刑復活令の署名への皮肉とか、コサック兵(ソ連は後に粛清する)との連帯とか、スターリンがどの面下げて観たのだろうと思わざるを得ない件の連発である(当局は本作に難癖つけている)。革命を熱く語るエイゼンシュタインの想いは明らかに、スターリン体制よりも東欧民主化革命の民衆に近接している。皮肉なことである。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)KEI[*] 袋のうさぎ Orpheus

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