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[コメント] クーリンチェ少年殺人事件(1991/台湾)

流暢なばかりで淡泊、記憶に残るものはなかった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







始めは家族を守る自信に溢れていた父親が次第に打ちのめされ、主人公の息子スーはこれに感化されてしまう。このニュアンスの推移をたっぷりと描いた処はいい。だが、なぜこの父の周辺事情、協力者の同級生とか、尋問する秘密警察の類について、もっと詳述しないのだろう。まるで90年代にも思想統制があったようなボカし方だ。カフカっぽく抽象的に語る方が普遍性があると信じているかのようなのだが、それならカフカのように、生半可に歴史に立ち入らない方法を取るべきだ。語らない理由が判らず隔靴掻痒である。

ギャング抗争の語りもそうで、それぞれの親の立ち位置をもっと明確に描くべきだ。その他、例えばスーに刺される直前、私は世界と同じで貴方には変えられないとミンは語るが、これが唐突で、なぜそういう考えに至ったのかが描かれない(それを否定するスーのパッションは判るにせよ)。本作は全て物事を具体的に描かない、という方法で一貫されており、歴史は背景に留まる。私は観ながら何度か『仁義なき戦い』を思い出した。あの歴史意識旺盛な泥臭さと、本作のスタイリッシュな淡泊さを比べれば、私は断然前者を取りたい。

そもそも本作が子供ギャング映画なのは、推し量れば高卒以上の者はみな軍隊に取られてチンピラの構成年齢が下がっていたということなのだろうか。そういう肝心の情報提供が欠けている。ただ「ハニーは全台北を手中にしていた」などと語られても、少年劇画並とバカバカしくなるばかりである。

ベタ褒めされている批評を幾つか目を通したことがあるが、期待通りの映像とも云い難い。面白かったのは暗闇からバスケットボールが転がり出る処くらい。ただ話法は優れたもので、大勢の登場人物を巧みに出し入れして4時間飽きさせない。だが流暢なばかりで記憶に残るものではなかった。

(評価:★3)

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