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[コメント] ある殺し屋(1967/日)

野川由美子のお下劣なビッチ・キャラ造形を愉しむ映画。脚本家は絶対、個人的な女への憾みを叩きつけているに違いない。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ヒモの美人局なのに喧嘩に勝った雷蔵にさっそく乗り換え、居酒屋をキャバレーに変え、巧みに小林幸子を追い出し、殺し屋と知って雷蔵を揺すって結婚を迫り、成田三樹夫に乗り換えて雷蔵暗殺を画策し、最後はひとりで去って行く。野川の造形が余りにもハマっている。

私ならこのラスト、成田にはせっかくだが死んで貰い、野川にはもう一度、雷蔵にラブアタックをさせたかった。本編では一度裏切ったのだからと他の男を求めて潔く去ってしまうのだが、委細気にせず雷蔵にもう一度迫らせたほうが、このビッチ・キャラが突き抜けたのではなかろうか。そして雷蔵は無論、ついて来るのを拒まないのだ。こっちの方が絶対面白いと思うんだが(別の話だが、最後に可哀想な小林幸子にフォローがあっても良かったのにとも思う)。

森一生はいつもながら反りが合わず、大したことがないと思う。雷蔵が暗殺を企む松下達夫と廊下ですれ違うのだが、寸での処で風船を追いかけた子供に邪魔されて叶わない件。ここなど、ヒッチコックだったら箆棒に印象的に撮っただろう。それをあっさり俯瞰のワンショットで流してしまう。ここは流して撮る処、という判断があるのだろうが、それが私には判らない。派手に撮ったらいいじゃないと思ってしまう。終盤の墓場の対決も、せっかくいい穴が掘ってあるのに活用しきれていない。窓から見下ろす雨に濡れた墓地のショットなど感じいいんだけど。

あと、回想が折り重なる構成だが、一軒屋に籠った目的が途中まで、ライバル社長松下の殺害と取れてしまうのは小さな瑕疵だろう。顎の肉が弛んだ雷蔵も味があっていい。元特攻隊の設定はどうでもよく、観客は陸軍中野学校出身者として殺人テクを見ることになる。味方と思われた小池朝雄が結局敵方として死んでゆくのは予定調和の嫌いあり。ボロ屋の壁の黒い滲みが印象に残る。このアパート、「空室あり」と(貼紙ではなく)看板を出しているのがすごい。満室になるのが想定できないという経営判断なのだろう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)水那岐[*]

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