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[コメント] 落葉樹(1986/日)

新藤は小林桂樹を底なしの悔恨と感傷にどっぷり浸してみせる。「菊と刀」も「甘えの構造」も熟知しているだろうに。彼にとって批評の手前で立ち止まるのが劇作なのだった。全てを完結させるラストの一言の破壊力。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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「お母さん」。

息子のちんちんに吸い付き、息子に蹴とばされる乙羽信子。冒頭の夕飯呼びに来る反復が全てでもいいのだろう。名作『』の続編として観ることもできるだろう。小林の果てしのない後悔は、自分が死んだらお母さんを覚えている人がいなくなるので自分は死んではいけない、という無茶苦茶な理屈にまで辿り着いている。いやこれは窮極と云うべきだ。

そして、余りに判りやすい母に対して余りに判りにくい父が徐々に浮上するのが絶妙の呼吸だ。謎の財津一郎。先祖とのみ対話し、蔵に畳敷かせて居座り、妻を茫然と見送る。この現実感覚の欠落は大日本帝国と余りにもよく似ているだろう。

邦画ファンなら誰でも知っている新藤実家離散話だが映画化されるのは初めてなのだった。破産劇としては『西陣の姉妹』、後日談としては『悲しみは女だけに』が既発だが、旧家没落に援用された作品としては『安城家の舞踏会』『お嬢さん乾杯』『夜明け前』とずらり名作が並ぶ。

タイトルバックの顔見世のサイレント調が愉しい(不気味でもあるが)。私はオーディオ好きだが、あんな高そうな蓄音機は見たことがない。別荘は『午後の遺言状』(95)と同じ別荘。

(評価:★5)

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