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[コメント] 八つ墓村(1977/日)

見処は中野良子の麗しい割烹着姿、大滝秀治花沢徳衛の味わい及び岡本茉莉が寄り目で呟く「祟りよ!」
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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連続殺人は余りにも想定内。本作の面白味は村の集団パニックであったはずだ。四百年前の落ち武者闇討ちを反復するかのような村人たちによる萩原健一の私刑未遂。動機が祟りというのも何か民俗譚めいていて凄いし、この手の役処に打ってつけの山谷初男がそこにいる。これをドバっと派手に詳述すればひとつの典型に高められたのではないのか。尻すぼみに終わるのはつまらない。路上でショーケンに掴みかかるあの変な婆さんにももっと活躍してもらいたかったし、発狂した岡本茉莉も見たかった。

映画はいろいろ穴だらけだ。序盤から登場するのに井川比佐志が何者なのかよく判らないし(殺されないのだから遺産には絡まないんだろうか)、市原悦子ら婆さんの造形は新東宝ホラーにも及ばぬ出来だし(しかし、提灯持って歩く画はとてもいい)、保護もせずショーケンを洞窟に置き去りにする警察は懲戒処分ものだし、渥美清がもう犯人と目星をつけている小川真由美にショーケンの面倒を見させるのが意味不明だし、彼女の洞窟での突然の発情に至っては阿呆らしくなる。

本作最大の瑕疵は、小川はどういう人物だったのかを何も掘り下げず、ただ渥美の資料収集の開陳だけで切り捨てたものだから、観客は彼女に何もシンパシーを感じられないことだ。それとも、これは瑕疵ではないのだろうか。先祖に操られたんだねえ、剣呑剣呑という胡乱な感想を引き出すには、人物描写は不要という脚本上の技法なのだろうか。

最後に焼けた旧家をせせら笑いながら見下ろす落ち武者たちの画には確かに力がある。しかし、これをなるほどと得心させ、恐怖させてくれる処まで映画は観客を引き上げてはくれない。このジャンルの傑作『ローズマリーの赤ちゃん』(68)などとは比べものにならない。

エンドタイトルにおける日本全国の洞窟の羅列は凄いものがあるが、それにしては、さんざ引っ張ったネタであった洞窟内の「龍の咢(あぎと)」がエラに全然似ていないのはショボい。受け専芝居のショーケンは何か不自由な感じばかり残る。渥美清も印象薄く、最後の小ネタ(弁護士事務所で茶を呑んでむせ返り、無言で毒かと疑わせる)は良かったがそのくらい。寅さん的には本作は全部、この小ネタのための夢オチの前振りだったりして。

(評価:★2)

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