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[コメント] 雨あがる(1999/日)

序盤の貧乏人天国、ああこのようなクロサワ流のベタを拝むのもこれが最後かと感慨を覚えざるを得ない。
寒山

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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そこに見える面子が殆ど老人ばかりなのは、本邦高齢化社会への視点があるのろうか。『どん底』でも『どですかでん』でも、もっと若い連中が揃っていたものだったが(なお、ミゾグチは同様の描写を『山椒大夫』でとても陰惨に表現した。対照的な両巨匠のスタンスは興味深いものがある)。

本作で良いのは造形の転結に優れた宮崎美子。就職できそうだと喜ぶ寺尾聡を眺める無表情がとてもいい。疑っているのだ、と後になって判る仕掛けで、そして亭主の信頼に急展開する「木偶の棒」発言に切れ味がある。本作のクロサワで優れているのはホンであった。宿屋への足止めから旅立ちに至る時間設定も、いかにも古典的で感じがいい。

悪いのは無論、滑舌悪い三船史郎の下手糞で、全てをぶち壊している。醸し出す空気感は三井弘次に近く、「優しさは人の自尊心を傷つけるものだ」という周五郎らしい気づきはいいものだが、彼にかかるとやたら軽薄に響く。彼を副主役として立てたとしか思えぬ寺尾追跡のラストなど、かくも七光りに気を遣わねばならないのかと阿呆らしくなる。当然に殿にはとっとと退場願うべき。それが余韻というものではなかろうか。

撮影もオマージュとして十全とは云い難い。冒頭の豪雨で渡れない大河など、師匠ならもっと豪快に見せただろう。一方、いい処も多い。宮崎の一張羅の着物は宿屋の壁との色調整がとても渋く決まっており、派手なカラー使いたがった師匠よりいい。殺陣もいい。寺尾が木刀を手元で反転させただけで相手はビクッとして飛び上がる。こういうのをクロサワは剽軽なタッチで劇画風に描いたものだったが、本作は渋く決めて成功している。この辺りに独自性があり、完コピ演出とは思わない。

あと、主人公ふたりが何処へ向かって旅するのかを映画が語らないのはなぜだろう。行く先にあるのは希望か絶望か、それとも行き先などなくさ迷うのか。最後は入江を見つけて絶景絶景と喜んでいるが、何なのだろう。宮崎の就職活動にあるまじき「木偶の棒」発言は、行き先により評価が違ってくる処だろう。あえて行く先を略して、件の発言は抽象的に浮き立っているが、それが狙いということなのだろうか。

(評価:★3)

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