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[コメント] 思えば遠くへ来たもんだ(1980/日)

脂っこい映画を予想させる面子なのに軽快に纏められているのが好ましく、最良の箇所は「男はつらいよ」を彷彿とさせる。体罰ネタは残念で減点。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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あべ静江武田鉄矢に惚れる、という超常現象の件がいい。男は顔じゃないよの理想は「男はつらいよ」でさんざ使われたものだがそれでもいい。お互いに言外の意味を探る眼差しの交換が優れて映画的だからだろう。『口笛を吹く寅次郎』(83)のエチュードの印象がある。

もうひとつ、武田の熊谷真実へのラブレターを吉田次昭が勝手に代筆する件もいい。熊谷に怒られた武田は吉田に怒るかと思いきや、気を遣ってくれたんだなと礼を云う。本作、武田が意外と大人しいのが効いている。

志方亜紀子の露出が多いのが嬉しく、イヤミのない山田隆夫の不良がとてもいい。「先輩」山本圭がいつ彼らしいリベラルな自説の開陳を始めるかと思いきやほとんど喋らないのは、70年代の終わりを象徴している具合だ。たこ八郎もいい。彼と武田の喧嘩その他、シークエンスを途中で切り上げる編集が多用されており、あっさりしてシツコくない印象を強めている。植木等乙羽信子がなんにもしないのも。

秋田の四季を普通に収めた映画は稀少だろう。ベストショットは山田隆夫が原っぱで歌う「昭和枯れすすき」と、ジェットコースターにおけるあべ静江の異常に可愛い笑顔。

以下は文句。ラストの煙草を吸った柔道部員への体罰は、1980年はこんなだったなあと思わされる。武田が昨今吐いている(私見では下らない)教育論は、当時を理想化しているのだとよく判る。無論、こめかみへのグリグリなどジャレているだけであり、本作のような理想的な教師がやる分には文句を云う人などいない。問題は、こんないい教師などどこにもいないという現実に暴力を組み合わされては堪らない、ということであり、これに文句を云う人も滅多にいないのである。理想と現実を混同されては堪らない。本作が産み落としたのが武田のような思想なら、仲間には入りたくない。

見合い相手の泉ピン子のブスネタも、本邦コメディの伝統からは少々やりすぎで、当時の漫才ブームの影響が割り込んでおり、これも80年である。あれはいい時代だっただろうか。

(評価:★3)

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