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[コメント] この窓は君のもの(1994/日)

素敵な90年代版『翔んだカップル
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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素人映画だというコメントが多くてびっくりした。まさかそんなことはない。本作は実に丁寧に撮られており、90年代の邦画の中でも筆頭格と思う。むしろ『ホームレス中学生』のほうが素人臭いのであり、この磨り減り具合はどうなっているだと云いたい。

全てのショットに細やかな神経が通っている。PFF臭いなどと嫌味を云う向きもあるだろうが、ここまで丁寧だと立派、味方をしたくなる。何度も往復される屋根の構図は全部違い、その度毎に新しい発見がある。アクションがまた素晴らしく、序盤の自転車二人乗りや終盤の葡萄畑と追いかけっこなど絶品だ。これらの長回しは相米を想起させ、『翔んだカップル』とは主題も被り、清水優雅子が薬師丸ひろ子に見えてくるのだが、しかし清水のほうが断然素敵だ。平凡な葛藤なしに仕上げるのがとても好ましく、花火のギミックなどは大林を思い出させるがベトつかず乾いている。

中盤、喧嘩から逃げた後の三人組の「ぶつかり合うだけが人生じゃないよな」という呟きが、後半の恋愛模様で吟味される展開。榊英雄が清水を追い越して疾走するギャグに、気持ちの通わせ方の判らなさが的確に表出されている。普通の高校生ってこういうものじゃないだろうか。女の子主観じゃないからロメール・タッチとは云いにくいのだけど、清水から見れば一生懸命に榊を誘っていて、しかし行く処まで行く気はない、時間の限られた延長戦の積極的な行動なのだろう。土地に留まる者と出て行く者、二人のすれ違い具合は切なく、だからRed River Valley(インディアン娘との逢瀬の歌ですね)がとても美しい。夢のようなラストシーンもとても美しいのだった。

唯一詰まらないショットは犬を抱いて花火を見上げるメガネ君、多分編集の加減だろうが意味不明。誰の親も登場させないのはメルヘンを強調して効いているが、えらく下手糞なお爺さんだけが素人臭い。その他、ギブス取った後であんなに走れるのか、とか詰め切れていない処はあるが、揚足取る気は全然しない。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ナム太郎[*]

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