コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 太平洋奇跡の作戦 キスカ(1965/日)

東宝戦争映画は50年代の松林から丸山へ。自虐史観は厭だと自慰史観に陥る道程の一里塚という感想。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「見殺しにしたら後世に恥」と撤退作戦遂行に至る山村聰とは何なんだろう。玉砕は方々でしているのだ。失敗したガダルカナル撤収作戦のやり直しとだけは触れられるのだが、その後も玉砕OKで戦争が進められたのは誰もが知る処であり誤魔化されはしないぞ。

そんななか展開されるのは、尻の穴がこそばゆくなるような空々しい美談のだんだら模様。生存者がスタッフ入りしていたらしく、批評的な視点は皆無なのは『南の島に雪が降る』と似ている。燃料無駄だろうにとつぜん帰還したり船団を旋回したりする三船敏郎は超能力持ったヒーローに過ぎず、彼の知性がこのように発揮されたという理詰めの説明が全くない辺りに、敗戦やむなしの諦念が漂う。

中丸忠雄は艦隊出発を知らずに潜水艦に乗ったのに、艦隊出発をキスカの藤田進に報告するのはおかしいし、霧の予想で最初失敗した気象隊の児玉清がこれを何も反省していないのもおかしい。撮影美術は充実のモノクロだが、艦船同士の接触を描写するときにまるで霧の出ていない特撮はショボい。

本作で個人的に驚いたのは幌莚出港帰港。サハリンは日本領だったのだ。アッツ・キスカはアラスカ領で、どうでもよい無人島だがアメリカ領土を占領したというシンボル的価値があったと劇中云われるが、元々どう見ても無駄である。

ラストのインポーズを写す。「その後凡そ半月 百隻の艦艇支援のものに陸兵三万五千の上陸を敢行した米軍は二昼夜に亘って同志討ちを演じた結果 キスカ島には犬二匹以外日本軍は一兵もいないことを知った」。二昼夜にわたって同志討ち、という処に冷笑が浮かんでいるだろう。下らない映画である。団伊玖磨の軽妙なキスカマーチもバカバカしい。

(評価:★2)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)死ぬまでシネマ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。