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[コメント] 家族の肖像(1974/仏=伊)

パリの68年はほんの数年前。ヴィスコンティはいまわの際に夢から覚めて『揺れる大地』『若者のすべて』に回帰しようとして果たせなかった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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本作でバート・ランカスターの造形は淡々としたもので通されている。悲痛な表白など一度もない。ラストも淡々と死に向かう。ヘルムート・バーガーが素っ裸でシャワー浴びていようが3Pしていようが、もう何も感じませんという、老人の悟達感が本作の肝である。エロいヴィスコンティ、愛人のバーガー、というだけでは、本作に関しては近視眼的な評と思われる。 本作の主題は、エロを過ぎた時点で見出されるものは何か、だろう。クライマックスで描かれる喧嘩は、痴情の終わった愛人たちの、右翼と左翼の古典的な分裂だ。「実業家は右翼よ。左翼だったことはないわ」と毒づくシルヴァーナ・マンガーノを、「ファシストの道化といると怪我をする」とバーガーは罵る。間に入ったランカスターは「昔はもっと政治と道徳のバランスを取ったものだ」と諭す。

重要なのはバーガーを隠す部屋が、母がユダヤ人やレジスタンスを匿った部屋だという設定だろう。ランカスターの元科学者、現代科学は隷属を生み出すのだというドロップアウトの経験は、バーガーの68年の体験とも共振しただろう。バーガーはこの学生運動からドロップアウトしたと語られる。

パリの68年はほんの数年前。元左翼の監督にとっても大事件だっただろう。まさに突然に間借り人が上の階で騒ぎ出したようなものだっただろう。「始末の悪い間借り人も家族と思えばいい」と受け入れようとするも、別れ別れになるのはもっぱら監督の高齢のせいだと思われる。

何で英語劇なんだろう(ランカスターはトスカーナ出身との科白がある。『ヴェニスに死す』も英語だかあれは主人公が英米人ということなんだろう)。再見。クラウディア・マルサーニというキツネ目の娘役が忘れ難い。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ゑぎ けにろん[*]

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