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[コメント] 顔(1999/日)

現代版地獄で仏の丁寧な写実。自転車で衝突されたのに「大丈夫ですか」と声掛ける酒屋の兄ちゃんが素晴らしい。ああいう人に私もなりたい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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本作の主人公、殺人罪で云い訳のきかない立場に設定したのが優れている。無実の罪で追われるという山ほどある平凡な映画の批評になっている。この作品、無実の罪だったら詰まんない作品だっただろう。これは突き詰めれば、果たして罪のない人などいるのか、悪夢で冷や汗をかいたことのない人などいるのか、という処まで至るのであり、原罪を問うとは多分本作のようなスタンスに依るに違いない。

さらに、主人公をラスコーリニコフでもムルソーでもなくアホな女に設定したのが優れている。彼女は罪の意識というものが殆ど薄弱で、悔悛も神との対決もあり得ない。風俗としてこれは実にリアルだ。彼女を救うのは自転車と水泳でしかない。ああ、何と情けないことか。一緒に泣きたくなるが、彼女は泣きもしないのだ。序盤で家出をして辿り着く雪の積もった駅前の風景が彼女の心情風景の全てなのだろう。

地獄に仏な周辺人物も主人公の造形に見合って何とも貧相だ。転落への志向しかない岸部一徳の情けなさは殆ど清々しい印象まで与える。彼女を嫌いまくる豊川悦司も、何もできないが天使のような大楠道代も、藤山直美に見合った仏なのだろう。徳田秋声がもしこの毒々しい悲喜劇を観たら、絶賛するに違いないと思われる。それとも、やられたと歯軋りするだろうか。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう[*] DSCH[*]

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