コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 炎628(1985/露)

私はこれほど優れた戦争映画を観たことがないし、これからも観ることはないだろう。★6級。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







話題の新書「独ソ戦」によればソ連の第二次大戦の被害2000万人はソ連当局の隠蔽で(見栄はっていたらしい)、実際はさらに多くて2700万人らしい。更に箆棒な数字だがしかし、本作のような被害が628か所もあればそれも当然と思わされる。ヒトラーだけがスラブ全滅を唱えただけではなく、ドイツ将校たちはコミュニストを人間とは思っていなかったのだ、とある。

いったい、銃を掘り出すとはどういう事態なのだろう。後で少年は批判されているが、それもよく判らない。『チャパーエフ』冒頭で赤軍が武器を水中から掘り出す件があるが、この引用ないしパロディなのだろうか。老人の真似するもうひとりの少年は何なのだろう。

霧の朝日の鮮やかさ。夢のような飛行機の反復されるショット。落下傘に続く爆弾の炸裂は描写の緊迫度に落差があり、驚異的にリアルだ。逃げる緩やかな斜面の様々なバリエーションは眩暈をもたらすようで、爆音で潰れた耳に不協和音の音楽が流れ続ける。ノイズ・ミュージックとは正にこのような状況を意識するための音楽であり、この点でも本作は先駆的だ。

少女だけが見る、小屋の背中に山積みにされた裸体の死体の山は余りにも生々しく、ゾンビ映画との類縁性がある。そしてあの深緑の沼の横断、とんでもない撮影だ。少年は気が狂ったかと思われたが、上陸すると村人が避難していた、という件がまるで夢のようだ。ドイツの蛮行、笑いの溢れた虐殺は最悪の集団心理のサンプルである。小屋の丸焼きは何という駄目押しだろう。

復讐の連鎖の放棄はソ連兵を前に松明を水に投げ込むショットに集約された。ヒトラー活躍のフィルムを延々と逆回転するショットは知的であり、胸が熱くなる。映画という表現媒体自体への自己批評があった。こんなくだらないものを宣伝しているんじゃないよ、という。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)ぽんしゅう[*] おーい粗茶[*] jollyjoker

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。