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[コメント] くちづけ(1957/日)

貧しくいたいけなデートがチェーホフ風で充実しており、バイクの行程など颯爽としていて素晴らしい。この序盤だけなら★5、しかし増村がこれだけで終わらせる訳もなく。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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金や階級を真ん中に置いた作劇は増村節であるとともに川口松太郎節であり、増村は溝口の後継者なのだという発見があった。どうもぎこちない。自分を売り飛ばしてハッピーエンドという処に何を見出せばよいのか不鮮明だ。金のある者へのしたたかな作戦なら、三益愛子の造形などもう一歩踏み込まないといけない。この終わり方では格好が良すぎる。川口浩が「今晩でなきゃ駄目なんだ」と野添ひとみを探し回るのも、なぜ今晩なのか川口が理由を知る由もなく不自然で、ぎこちなさに拍車がかかる。

思えば、川口系列の義理人情で終わらせない曰く云い難さは、高度成長に抵抗する方策を探り続けたこれからの増村を予告しているのだろう。本作はまだ肩慣らしと云った処か。序盤の疾走感をあっけらかんと最後まで続ければヌーヴェルヴァーグの先駆となったはずで、惜しいと思うのだが、あの増村がそんなことする訳もないのだった。しかしだからこそ、惻隠の情好みの日本男子へのくちづけ指南というタイトルに掲げたテーマから軽みが失われてしまった。

父原作の母子出演とは珍しい。三益愛子川口浩も実力を示していて、七光りの厭らしさはない。本サイトで検索したところ、この母子の共演はこの後、大映オールスターの『忠臣蔵』があるのみ、父親絡みの出演作はないみたい。原作者は父親を刑務所に入れておく諧謔を持ち合わせているのは好ましく、豪華絢爛な「東京アパート」は川口アパートのパロディだろうか。小菅刑務所の細かい面会方法、ローラースケート場やオート三輪など当時の風俗も楽しい。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)3819695[*] ぽんしゅう[*]

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