コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 君の名は 第三部(1954/日)

全ての元凶は淡島千景の妄想にあったのではないのだろうか。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







元に戻れぬ悔悛の物語。しかしそこには生々しいぎこちなさがある。岸惠子に詫びる市川春代の論法は、新しい嫁が来ると息子と別居せねばならないから戻ってほしいというエゴイスティックなものだ。これを断る岸は佐田啓二が好きだからと云う。この告白は意外なことに、全編通じて始めてである。これまで岸が佐田の処に逃げ込むのは全て、嫁ぎ先に居辛いからだった。ここに至っても、岸は佐田をダシにして浜口家から逃げ出そうとしているというニュアンスが強い。恋愛は単体では価値を持っていない。佐田が岸に示す愛情も同情のオブラートに包まれ続けた。岸の恋愛感情も最後まで弾けることがない。意地悪く取ればM的。これぞ忍従のメロドラマ、松竹王道なのだろう。

最後に淡島千景が「忘却は忘れ去ること也か」と呟く。多義的な収束だ。ハッピーエンドに見えたふたりの別離を予感させているようでもあるし、副主役淡島の佐田への想いを述べたようにも見える。意図的にボカシてあるに違いなく、客席は議論に湧いたに違いない。

私は別様に取りたい。最初から最後まで、この悪女は愉しんでいたのだ。最初に岸が淡島に船上で逢わなければ、淡島が佐田の詞を見つけるなどのお節介しなければ、岸は佐田を忘れてこの怒涛の三部作はなかっただろう。この第三部では淡島はちゃっかり佐田の下宿の常連になる。ベタベタのメロドラマと見せかけてこっそり毒が混じっている、と。この方が絶対面白い。この後、岸は亡くなり、淡島が佐田と結ばれたのではないだろうか。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)KEI[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。