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[コメント] かぐや姫の物語(2013/日)

あるべきだったもう一つの日本アニメの形とその性格の悪さについて
steeling

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







かぐや姫は良い結果も、そして悪い結果すらも最期まで達成する事が出来ず、全てが遮られる。 一切皆苦、これは苦痛というよりも全てが思い通りにならない苦を意味しているわけで、 この悲劇は非常に仏教的であり、彼女が受ける罪も罰も助けもそこが一切皆苦の穢れた地上である事に由来する。 最期は月に戻る時に天人として釈迦がやってくるのはそういう意味だ。 しかし、そこで流れる素っ頓狂な音楽には全方位的な悪意が感じられて思わず笑ってしまった。 強制的に悟りを開かされ返って行くが記憶は失っても身体が地球の穢れを覚えている。 というワケでやっぱり遮られて終わる。穢れの勝利であるが達成の敗北でもある。本当に性格が悪い。

このアニメの位置付けは他のジブリやディズニー、日本アニメと一緒に並べるよりも、ヤン・シュヴァンクマイエルユーリ・ノルシュテインミッシェル・オスロといった土着性を持つ海外アニメ作家の作品との対比が良く似合う。 というよりこの作品はそういうアニメに影響を受け、それを日本で配給してきたジブリが、 本格的に日本の土着的なアニメを作るとしたらこうなる、という感じであろう。 そもそもアニメとは技法なのだから、まずそこから日本の技法を意識するのも、 ぬるぬるとした質の動きでなく、キレのいい影の無い線であるのも日本画の文化を考えれば当然の話だ。 この作品はそれが「自然」に動くのが非常に優れた所である。 線としては強い割にぼやける筆絵を自然に動かし、かつ説得力を持たせるのはかなり難しい筈だ。 それに対してはキャラを行動に基づいて全員顔がそれをやりそうな顔に組みたてて、 デフォルメというよりは戯画化をする事で説得力を持たせている。 これができてる時点でアニメ表現としては成功してる、と言えるだろう。

総じて竹取物語当時の思想をベースにした基本は普遍的な悲劇である。 が、ただ一筋縄ではなくそれを全編に渡って人間に対しての辛辣な見方に貫かれており それと戯画的な絵が相まってブラックなのかギャグなのか、感動なのか皮肉なのか、その上をウロウロする スリリングさが非常に楽しめたので個人的には大満足の作品ではある。

が、特にストーリーでは高畑勲特有の何か漂う嫌な感じで楽しめた部分が多く、 健全さ、バランス、もしくは強烈さがあるかというと疑わしい印象であった。 恐らくそういった部分にピンと来ない人にはまったくぼんやりした印象を与える映画だろう。 同じ年に思いっきり直球を投げてきた同僚のジジイと比べると、晩年の俺メッセージ感も薄い。あれは濃すぎて劇薬だが。 ただ、よく作り込まれているのは確かで、変な言葉だがハッキリともやもやしている。声優達の熱演も素晴らしい。 特にこの作品の絵を楽しむなら大きいスクリーンで一見の価値アリ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)ALOHA[*] 死ぬまでシネマ[*] おーい粗茶[*] けにろん[*] Orpheus[*] サイモン64[*]

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