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[コメント] 不審者(1951/米)

同じ町(あるいは国)で生まれ育った男女が、偶然異郷の一角で逢着し、思い通りにいかない人生を慨嘆しているうちに寂しさ(あるいは別の思惑も・・・)から不倫関係を結ぶ。世界各地でそれこそ夜空の星の数ほどありそうな話だが、それでも魅せるのはロージーの演出力なのだろう。
濡れ鼠

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







とくにモーテルの一室で行き詰った二人の心情を戸外の音響(オフスクリーン)によって揺さぶりをかけるシーン。にわかに危機感を煽り立てる救急車のサイレンから、ひっきりなしに前の道を通りずぎてゆく車の音の連続が拠り所のなさを浮き彫りにする。

一瞬しか顔を見せない夫/ラジオ作家の存在も幽霊のようにつきまとって凄い。邸宅のなかはお化け屋敷のようにやけにでかくてがらんとしているし、不審者の話にしても有名なディスクジョッキ−の残影にしても、女の虚言ではないかと二人の警官と一緒になってしばらくの間疑ってしまったほどだ。若妻が独りで留守番中は、ラジオ放送の声として遍在性を誇り、事件の後は録音された過去の声として時空を超越した呪縛力を仄めかす。つまり、真実の愛の代わりに生活の安楽さを選んだ女は、生きている限り、どこへいこうとも、メフィストテレスの契約から逃れられないわけだ!

教会で結婚式を挙げて二人が取り巻きを引き連れながら出てくる場面も一工夫あって面白い。表へ現れた後にカットして切り替えるのでなく、そのまま階段をぐるりと一回りさせて待機中の車に乗り込むまで長回しで映し続ける。つきまとう群衆が簡単に二人を立ち去らさせてくれず、いつまでも男にとってはどうでもよさそうな話題で引き止められて、先行きに暗雲が立ち込めてくると同時にふと二人の未来に名状し難い不安を呼び起こす一瞬がある(結婚式の当日に!)。こういうディテールの畳みかけが後にじわじわと効いてくる。

終盤で、男が真相を暴露されて、女のもとから着の身着のまま車で逃走しようとする。まるで贖罪の道は、過去へ向かう一本道以外はありえないとでもいうように、丘の切り通しで偶然前夫の弟夫婦と鉢合せになって身動きがとれなくなる。 この構図は、ちょっと図式的な感じがしないでもないが、切羽詰まった者の焦燥感と、男をこれまで突き動かしてきた情動の盲目性を剥き出しにする格好の機会となる。

ほかにも素材の月並みさに比べて気の利いた場面がたくさんあるのだが、やはり窓辺に佇む女を額縁の絵のように切り取ったオ−プニングショットを最後に挙げておきたい。誰にも見られていないと思って奔放に振る舞う女の解放感と嫉妬深い亭主によって深窓に押し込められた妻の不自由さの同居。後に通報を受けて参上する警官の前で見せる余所行きの顔が、先の真情の吐露と鮮やかな対照を見せる。

(評価:★4)

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