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[コメント] コロンバス(2017/米)

建築映画としては、ローマの大聖堂とその作者の生涯を下地にした『La Sapienza』の後に続けて見ると、モダニズムとバロックの様式の違いだけでなく、その背後にある宇宙観の変遷(超越性から内在性へ)まで透けてくるから面白い。建築家が思い描いた世界の<梁と屋根>を虚心になってなぞることで精神に変容をきたそうとするところは、同様に先入観で目を曇らされた男が盲人の導きにより開眼する「大聖堂」**に通底するものがある
濡れ鼠

もちろんコロンバスの建築群の斬新なデザインにも圧倒されたが、なんだかんだいって、主演女優の存在感につきる。 『スプリット』で初見したときから気になってはいたが、これほど顔芸の引き出しが多い女優だとは思わなかった。 常に相手の底意を見透かしたようなにやにや笑い。まだ夢の続きから抜けきれないような物憂げな放心の表情。感動をこらえきれないのか、ただ単に目に塵が入ったから泣いているように見えるのかすぐに見分けがつかない心配顔。20代後半の女優が高校生を演じることが珍しくないなかで、年相応な外見なのも安心できる。ハリウッド映画にありがちなモデル体型でなく、普通に六頭身で小太りなところも、girl next doorといった感じで好感大。

で、人口4万以下の地方都市で、建築なんてハードルの高い学問に通暁している優等生なのに、女手ひとつで自分を育ててくれた母親のそばに留まるために進学を断念するような牢乎な一面がある。というのも、母は昔から男関係が呪われていてすぐに薬物に逃避する弱い人間であることを子供の頃から散々見せつけられてきたからだ。バイト先の図書館で、帰省中の旧友と鉢合せになるシーンがある。その彼女、LAでキャンパスライフを謳歌しているのをひけらかしたり、コロンバスの男たちのつまらなさを人も無げに放言したり、ちょっと田舎の人々を見下したところがある。今回も直近までアムスでおおいに遊行してきたらしい(ナイトライフとかコーヒーショップとか。。)つまり、母子家庭で大学の費用が工面できないヒロインとは明らかに異なる人生行路を辿りつつあるわけだ。その岑々とする対比が、忍辱の歳月の跡が深く刻まれた主人公の横顔に一層の色どりを添える。

ある年齢特有のジレンマと、土地や家族や金銭問題など自分独りの力だけではどうしようもない桎梏(あるいはその思い込み。。。)に囚われたひとつの展望。そういう20歳の境目を過る心の浮き沈みを、甘いも辛いも酸っぱいも、親や同僚とのさり気ないやり取りを通して小出しにしてゆくコゴナダの手並みはなかなかのものだ。相手役のチョウには悪いが、この映画のルー・リチャードソンを前にすると、刺身の妻に徹するほかない。それほど、ケーシーの造形のほうが肝胆を砕かれているし、演じる女優の側にとってもキャリアのひとつの分水嶺になる手応えがあったはず(実際、これまでの出演作品のうちで一番好きだと断言するインタビューを見た。

9/10

**レイモンド・カーヴァーのほうです。

(評価:★5)

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