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[コメント] 象は静かに座っている(2018/中国)

曇り空の街並も人間模様も殺伐として、どこを見渡しても心の潤いなどなさそうなのに、めったにないような瑞々しさが奔騰する瞬間があって、目が洗われるようだった。伏目がちなアップの物思わしげな無言劇が充実している。団地や路地、陸橋など没個性的な都市の舞台袖が霜枯れの抒情を帯びるのは、作家にとってそれらの場所が特別な感慨なしには想起できないほど重みを持つからだろう。たとえそれが地獄の一丁目に過ぎないにしても
濡れ鼠

ちなみに、私も、満州里ではないけれど、雲南最北部の<シャングリラ>を目指して一路北北西へ進路を取る中国人バックパッカーの一団と一緒になってしばらくの間道中を共にしたことがある。といっても、政府公認のシャングリラ市のことではなくて、ちょうど日本国内の渡り鳥的旅行者にとっての北海道の二風谷のようなヒッピーの溜り場が、チベットとの境目あたりにあるらしいのだ。なかには志半ばで、観光客も多くてずっと利便もいい麗江あたりで沈没している者もいるという話を聞いた。この映画のことを反芻しながら、あの連中もわけありそうだったが、あまり郷里のことは話したがらなかったなあと回顧した。映画の終盤あたりで、深夜バス移動中に、周囲に何もない荒蕪の地で停車中のバスから乗客が出てきて、一緒に息継ぎする場面があるが、あれなんかも一つの場所から次の場所まで途方もない距離を走破しなければならない中国の陸路の旅の不眠症的な夜の気分を詩的に捉えていると思った。無明長夜の闇に四方から囲まれて、宇宙の涯を塵となって漂っているような不思議な感慨に襲われたものだ。

9/10

(評価:★5)

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