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[コメント] ふたりの人魚(2000/日=独=中国)

吹き溜まりの徒花といったモダンな化粧漆喰を落として現れるのは古色蒼然とした哀調の世界。P・K・ディック嫡流の主格の分裂により、時の力では癒されない瑕の疼きを曝け出して見せる。
濡れ鼠

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







しかし上海の下町はほんとに汚い。緑が全然なく、見渡す限り泥炭色に塗り込まれて、町全体がぷんぷんと悪臭を放つドブみたいだ。今にも地中に呑まれそうな路地の暗がりが、電影世界の住人のためのまるで新鮮味のないお伽噺を、一段と切なく儚げに燐光に包んで輝かしては濫觴の闇に戻す。きっと馬達なんて名前の二枚目は最初から存在しなかったのだ。いや、むしろ、美美だって、カメラマン志望の男が飾り窓の片陰に見つけたハート型の蛍光ウィッグから想を得たに違いない。男は艀に乗ってとつおいつ漂いながら、在ったかもしれない別の人生で、会えたかもしれない別の女と紡いだはずの絶対愛の残照をつなぎとめようとする。お気に入りのギャング映画の範に倣って、掃き溜めの逢瀬に相応しい結末を思い浮かべようとする。だけど、本当は、わかってるのだ。自分は、この世の誰とも自分の思い描いているような恋を実現できないことを。夕映えの揺蕩いに瞳を溺らせながら、きっとそのことで胸が張り裂けそうになっているに違いないのだ。いつ破裂してもおかしくない頭のなかには無量微塵の物語が渦巻いているが、自分はいつまでたっても悠久の流れから身を起こして対岸へ渡る決心がつかないのだ。

(評価:★4)

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