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[コメント] ほえる犬は噛まない(2000/韓国)

俺はポン・ジュノにほえるが、ペ・ドゥナは噛みつかない。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ペ・ドゥナの表情は見ていて飽きない。いつまででも見ていられる。 私の「コロコロ変わるその表情を見ていて飽きない」代表は柴咲コウなのです。 『メゾン・ド・ヒミコ』なんか、映画自体は全然覚えていないのに柴咲コウの表情だけ覚えている。

たぶん私は、この映画のペ・ドゥナも忘れないでしょう。

それで逆に気付いちゃったのさ。 他のポン・ジュノ作品で、魅力的なキャラクターが思い浮かばないことに。

巧いしアイディアは豊富なんだけど、魅力的なキャラクターや感情移入できる登場人物がいないがために、共感できないというか、観ている者の気持ちの持っていき場がない。 これが、私の思うポン・ジュノ総論。

パラサイト』が分かりやすい例ですが、ほぼ全ての作品で「上流階級」と「下層市民」が描かれます。 当然、「上流階級」は良く描きません。この映画で言えば、賄賂学長とかですね。 一方、「下層市民」も良く描きません。バカでマヌケでグータラな上に小賢しい小悪党として描かれます。 カウリスマキのような市井の人々に向ける優しい視線や、ケン・ローチのように市民寄りの社会に対する厳しい目といったものは皆無なのです。

この映画のペ・ドゥナは、経理としてはダメっ娘ですが、打算が無い。 ポン・ジュノ作品はいつもバカ・マヌケが引き起こす「偶然」で話を転がすのでイラつくんですが、本作のペ・ドゥナのマヌケは双眼鏡を落とすくらい。可愛いもんですよ。

そんな、他作品では見当たらない思わず応援したくなるような素直ないい意味でのバカなダメっ娘ペ・ドゥナに対してすら、ポン・ジュノは何も報いてあげない。テレビニュースに映るというささやかな願いすら叶えることはない。なんてヒドイ奴。なんて『悪い男』(<それはキム・ギドク)。

「気持ちの持っていき場がない」ということに関して言えば、そもそも韓国の社会情勢が皮膚感覚で分からないんですよ。

殺人の追憶』『グエムル』で、私は「韓国人だったら面白いのかもしれない」と評したのですが、この映画も同じです。 ポン・ジュノが描こうとしているテーマは「韓国社会に対する揶揄」だと思うんですよね。社会派コメディなんですよ。

例えばこの映画で、「ペット禁止なのに皆飼ってる」「戦後、韓国人はルールを守らないから」という会話がありますが、これ、韓国人は笑うのかなあ? さも当然の「建設ラッシュ=手抜き工事」や「賄賂文化」。ネタなのか?ガチなのか?

ここで言う戦後は朝鮮戦争でしょうし、建設ラッシュの背景はソウル五輪でしょう。53年の休戦後から88年ソウル五輪まで続いていた右肩上がり経済成長も頭打ちとなり、ちょうどこの映画の2000年頃は韓国社会に閉塞感が漂ってた頃だと思うんです。元大統領やその家族の贈収賄が明るみになったりね。ソウル五輪から犬食も禁止されてるしね。K-POPが韓国社会に光をもたらすのはまだ10年近くも後のこと。

そんな状況下での作品だってことは、頭では理解しています。でも皮膚感覚では分からない。だから観ている最中、何の感慨も感情もわかない。気持ちの持っていき場がない。

そうは言っても、巧いんですよ。 ケーキのクダリとかね。箱の高さが札束分足りなくてイチゴを食べるでしょ。あのイチゴの赤は、犬殺しの際のシャツと帽子の色。この映画、「善」の象徴として黄色のパーカーは何度も登場するけど、赤色が強調される場面は他にはない(と思う)。

(2021.02.13 早稲田松竹にて鑑賞)

(評価:★3)

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