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[コメント] 小間使の日記(1963/仏=伊)

実は政治映画。実はブニュエルのガチ。(再鑑賞でコメント全面改訂)
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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そもそも大女優ジャンヌ・モローが小間使いとはどーゆーこと?市原悦子じゃないんだぞ!ジャンヌ・モローは小松菜奈なんですよ。いや、小松菜奈が日本のジャンヌ・モローなのです。何を言ってるんだ?私は「小松菜奈はジャンヌ・モローになれる逸材」と布教している宣教師なのです。まあ、映画ではジャンヌ・モローが一番偉そうですけどね。フランスの杉浦直樹=ミシェル・ピコリをはじめ、男どもを手玉にとっちゃうからね。さすがジャンヌ・モロー。ジャンヌ・モローはジャンヌ・モローである。『女は女である』みたいなこと言っちゃった。そっちはアンナ・カリーナ。そういや「ヌーヴェルヴァーグの恋人」ジャンヌ・モローはゴダール作品には出てないな。

今回久々の再鑑賞で、ブニュエルの映画である以前に「ジャンヌ・モローの映画」と認識を改めました。この映画の不可思議さは、ブニュエルの変態趣味もさることながら、ジャンヌ・モローの存在が大きい。善悪不明なジャンヌ・モローの不思議な魅力とセレスティーヌというキャラクターがうまく重なったんだと思います。でも、よく粗筋で書かれるような「覗き見る」立ち位置かな?一見、かき回す立場にも見えますよね。「家政婦は見た」よりも『家族ゲーム』松田優作。沼田君ちはあれですか?しかし冷静に見ると、セレスティーヌもまた、この奇怪な世界に次第に同化していくようにも見えます。

設定は1930年半ばのフランス。右派と左派に分裂して大騒ぎだった時代らしいです。両大戦の間、ヨーロッパ各国は大揺れに揺れていたんですよね。フランスは右派・左派の政権が短期間で入れ替わるなど政局が不安定だったようで、もしかすると国民も思想的に分断されていたかもしれません。コロナ対策だってフランス国民は一家言持ってるもんな。その時期、スペインにいた若きルイス・ブニュエルは内戦に左派側で参戦。敗北し国外へ逃亡したそうです。

要するに、この時代背景には、ブニュエルの「恨みつらみ」が込められているのです。晩年の「おふざけ三部作」からは考えられないようなブニュエルの「ガチ」。

自分で書いててナンですが、「セレスティーヌもこの奇怪な世界に同化していく」というのもあながち間違いではないと思うんです。たぶん、冷静な立ち位置でいた人も飲み込まれてしまう、そんな時代の空気をブニュエルは描いていたのかもしれません。「ファシズムの勃興に警鐘を鳴らした」という評もあるようで、たしかに製作された1964年はドゴール大統領の時代なんですよね。強いフランスを目指した強い大統領は、フランスの国力を復活させた一方で、時に「独裁的」という批判もありました。ま、そんなドゴール暗殺は『ジャッカルの日』まで待ちましょう。

(2022.01.29 角川シネマ有楽町にてデジタルリマスター版を再鑑賞)

(評価:★3)

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