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[コメント] やさしくキスをして(2004/英=ベルギー=独=伊=スペイン)

ケン・ローチのロミジュリ。痛い痛い。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







劇中、女教師ロシーンが廊下に呼び出されて他校への異動(クビ)を告げられるシーンがあります。 その時、彼女が教室で生徒に聴かせているのは、ビリー・ホリデイの「奇妙な果実」。 白人のリンチで惨殺され木に吊るされた黒人の様を「南部の木には奇妙な果実がなる」と唄う、人種差別告発の歌。 それをスライドも交えて見せているのですから、「人種差別=偏見」について生徒に説いているものと思われます。 敬虔なカトリック学校でそんなことしてるからクビになるんでしょうが、差別と偏見というテーマを、さりげなく、そして確実に、この映画にしのばせます。

だって、ケン・ローチだもん。

冒頭、雑貨店の店先で犬がオシッコしますよね。 最初は気付かなかったのですが、これ、主人公カシムの父親が経営する店なんですね。 要するに、スコットランド人的に言えば「パキ野郎の店」。 「市井の人々を描く映画ですよ」という冒頭に見せかけて、実は既に「差別と偏見」がしのばせてある。 人種と宗教を前面に押し出してはいるが、父のエピソードとして提示されるインドとパキスタンの例からも分かる通り、その根底は「差別と偏見」なのだ。宗教も差別も偏見も、そうした社会も、すべて人の手によって生み出されたものだ。

「相性」という単語が用いられますが、人は不完全で別れた片割れを探しているという。その片割れとの出会い(=相性)が、人の手によって生み出された“障害”で阻まれようとする。

ここがケン・ローチ先生の特徴でもあり始末に負えない所なのだが、「明確な悪(それが仮想敵でもいい)がいたらどんなに楽だろう」といつも思う。 モンタギュー家とキャピュレット家などという分かり易い設定なら、どんなに楽だろうと思う。 いっそ、もっと感傷的で、お涙頂戴映画ならどんなに楽だろう。

だから、彼の映画は観ていて楽じゃない。出口が見えないだけに、痛すぎる。

余談

このDVDを借りた際、そのドリカムの曲みたいなタイトルを見た知人ら(私が映画ヲタであることを知らない)に「こういうラブロマンスが好きな人なんだ」という目で見られた。 ケン・ローチ先生だっちゅーねん!(憤慨)

ただまあ、ラブロマンスよろしく、小粋な台詞が珍しく多い気もする。

(評価:★4)

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