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[コメント] ノン子36歳(家事手伝い)(2008/日)

苛立ちとグーパンチを描く作家・熊切和嘉。この人、めちゃくちゃ巧い。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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ノン子はいつも不満気な“足音”をたてる。 室内ではドスドスと、外ではサンダルを引きずり、不愉快な音をたて続ける。 それは、街のゴミ箱を蹴飛ばすのと同様、やり場の無い苛立ちの象徴である。 そんな足音をたてていた彼女は、クライマックスで裸足になり、ひよこを避けながらソロソロと男に近づく。裸足のまま逃げる。 そして「(人生なんて)こんなもんよ」とでも言うように、一瞬の熱にうなされた自分に気付き(まるで祭りの後の様な気分)、我に返り、男に借りたスニーカーを置いて消える。

足音(脚元)ばかりでなく、微に入り細を穿ち、考えられた描写がなされる。

彼女は2度「キスして」と言う。 その時の気持ちが大きく違うことは表情だけで手に取るように分かる。 もちろん役者の演技もあるのだが、たぶん照明の当て方も違うと思う。 1度目は冷たく平面的な照明(むしろ怒っている様にさえ見える)、2度目は優しく柔らかい光が当たる。

暴力描写の印象の強い監督だが、とても繊細な描写も出来る人だと思う。 数々の映画的なシーン。実に巧い。

配役も絶妙。 指先だけで脂ぎった存在感を出す鶴見辰吾津田寛治のありそうな存在感(知人にああいうのいるや)、めっきり老け顔になった新田恵利の秩父の寄居町辺りにいそうなスナックのママ感、佐藤仁美の嫌味感。 そして、プーこと坂井真紀の、テレビドラマ「お茶の間(1993年、脚本:奥寺佐渡子)以来定番の安定した“苛立ちキャラ”。

とても“痛い”映画だが、面白かった。

(評価:★4)

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