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[コメント] 仁義なき戦い 広島死闘編(1973/日)

北大路欣也の『雄呂血』。北大路欣也の親父はバンツマじゃなくて右太衛門だけどな。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







1作目同様「大人に翻弄される若者の物語」だと思っています。なんならガッツリ『雄呂血』。ま、バンツマの息子は田村3兄弟(<だんご3兄弟みたいな言い方)で、北大路欣也の親父は『旗本退屈男』ですけどね。

そう考えると、この映画は「北大路欣也vs千葉真一」という構図ですが、実生活と映画の設定が真逆なんですね。ゼロから這い上がる殺し屋を演じた北大路欣也はサラブレッドで、ヤクザのドラ息子を演じた千葉真一は己の腕一本(身体能力一本)で這い上がった俳優。もっとも、元の配役は逆だったというエピソードもありますが。

「大人に翻弄される若者」像が、北大路欣也によって「繊細さ」「ナイーブさ」を得た気がするんです。ヤクザ映画で何を言うとるんじゃーって話ですけどね。若者の「行き場のないエネルギー」が描かれた1作目に対し、本作は「脆さ/危うさ」みたいなものが伴っていたように思います。いずれにせよ、老獪な親父世代に踏みにじられちゃいますけど。ほんと金子信雄はちっちゃい奴。楽しい夕食作っとる場合じゃねーど。

映画の舞台は1950 - 53年(昭和25 - 28年)ですが、映画自体は製作時1973年(昭和48年)頃の時代の空気感を捉えていたんだと思います。1作目は、ある種の熱にうなされた喧噪の時代の空気感が「若者のエネルギー」と共に描かれていますが、「脆さ/危うさ」を伴った若者のナイーブさを帯びた本作では、「世代間の断絶」が浮かび上がったように見えます。

「断絶」と言えば井上陽水のアルバムですが、この発売が1972年。私が「子供と大人の断絶を描いた映画」と言い張っている『小さな恋のメロディ』が71年。ドラッカーの『断絶の時代』という本が1968年出版されてベストセラーになったそうですから、1970年前後は世界的に「断絶ブーム」だったと思われます。69年の『イージー・ライダー』も同様。まあ、ドラッカーの言う断絶と、ここで言う世代間の断絶はイコールではありませんけど。てゆーか、断絶ブームって何だよ。

北大路欣也演じる山中正治は復員兵=戦中派。千葉真一演じる大友勝利は出征していない、言わば戦後派。この狂犬二人の設定です。

脚本の笠原和夫は入隊経験があるそうで、戦中派・山中の心情だったそうです。なので、ラストの通夜シーンが「若者の犠牲の上にあぐらをかくオジサン達の図」に見えるのは、彼の視点なのでしょう。未亡人・梶芽衣子の夫が特攻兵だったというクダリもありますしね。いつだって犠牲になるのは若者なのさ。やるせねえニャー。という視点。狂犬だけどな。

一方、自称「戦中派のしっぽ」深作欣二は、自身も入隊経験がないため戦後派・大友勝利に共感していたとか。なるほど、そう言われると深作映画の「面白けりゃなんでもあり」感は似ている気がします。実際、手持ちカメラをぶん回す「型破り」な撮影手法は映画の仁義を欠いてますしね。若者が世の中を変えるのさ視点。この時、深作欣二43歳。

そんなギラギラしていた深作欣二も、ほぼ20年後の『いつかギラギラする日』では、時代とともに立場逆転しちゃうんですよ。「若者に翻弄されるオジサン」視点になってしまう。千葉真一なんか若い女に騙されてタマ取られちゃうからね。やるせねえニャー。

(2021.12.18 CS放送の4Kリマスター版の2Kダウンコンバート版を録画で鑑賞)

(評価:★4)

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