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[コメント] まほろ駅前多田便利軒(2011/日)

男の子はみんな「探偵物語」をやりたいんだ!
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







また勝手なことを言い出すが、“私立探偵モノ”の系譜というのがあるように思う。 シャーロック・ホームズや明智小五郎といった“名探偵”の系譜とは別のライトな私立探偵物。“ハードボイルド・コメディー”と言った方が正確かもしれない。

その起源は分からない。 ハードボイルドに起源を置くならフィリップ・マーロウということなのかもしれないが、その軽口がコミカルさに発展したものなのか、あるいは正面切った“タフガイ”に対する照れなのか、そもそもコミカル抜きでは日本の風土に合わないのか、はたまた全然関係ないのか、全く分からない。 例えばアニメ「ルパン三世」は(探偵ではなく泥棒だが)“ハードボイルド・コメディー”の代表格だと思う。しかし元々の原作は決してコメディーではない。

日本では、松田優作のドラマ「探偵物語」の影響が非常に大きいと思う。 この映画でもそうだが、みんな「なんじゃこりゃー!」って言いたがっている(<それは「太陽にほえろ!」)。 「探偵物語」は(その後のパロディ等も含めて普及したという面もあろうが)、“ハードボイルド・コミカル風味”の先駆けだったのではないだろうか。 もっとも私は松田優作にあまり興味は無く、むしろ沖雅也「俺たちは天使だ!」が好きだった(中学生頃に夕方の再放送を見ていたクチだが)。 「俺たちは天使だ!」はスチャラカ探偵集団物で、どちらかというと“コメディー・ハードボイルド風味”と言えよう。 「探偵物語」と「俺たちは天使だ!」が1979年、コメディー要素の強い「ルパン三世」第2シリーズが1977年。日本は70年代後半に“ハードボイルド・コメディー”天国になったのかもしれない。いや、天国って、オーバーな。

さて、前置きが長いが、この映画は“ハードボイルド・コメディー”系譜の現代版ではなかろうか、という話である。

時代が進み、2000年頃からこのジャンルは新たな転機を迎える。「池袋ウェストゲートパーク」の登場だ。 この『まほろ駅前多田便利軒』と「IWGP」に共通する点は、“私立探偵”という職業を捨てたことと、地域性(ローカル化)ということが挙げられよう。 (実際にはこの間に、時代を読み間違えた「私立探偵濱マイクシリーズ」という失敗作があるのだが、まあそれはいいとしよう。)

おそらく、現代では私立探偵(それも個人経営の)という職業が現実的ではないのかもしれない。いやまあ、不倫調査から意外な事件に巻き込まれるって話は書けるけどね。俺も私立探偵物は書きたいと思うが、今さら小っ恥ずかしくって書けないよ。それなら便利屋の方が間口が広いし融通が利く。第一現代的だ。

じゃあ地域性はどうかと言うと、かつては七曲署なんていう一介の所轄が次々と難事件を独自で解決するというリアリティーもへったくれもなかった時代もあったが(<それも「太陽にほえろ!」だ)、今は「地域特性」ということがリアリティーの一つとして受け入れられる時代となったのかもしれない。 確かにこの映画で「まほろ」がどういう街なのか描ききれていない印象があるが、実際には「町田」であり、その“中途半端な都会感”という地域特性は、なんだかこの話に合っているような気がする。と思う元町田住民であった。街って顔がある。

それではなぜ、みんな、というか男は、「私立探偵モノ」に憧れるのだろうか? おそらく、そこには「男の美学」が詰まっているのだ。 アウトローな生き方で、事件解決という貢献をし、強さと共に優しさを時折見せ、ニヒルと滑稽さを併せ持つ。 そして何と言っても「バカやってもカッコいい男」。 瑛太と龍平は、オフビートなバカを演じてもカッコいい。 この映画の最大の勝因はこれだと思う。

(11.08.06 飯田橋ギンレイホールにて鑑賞)

(評価:★4)

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