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[コメント] 僕達急行 A列車で行こう(2011/日)

一見ふざけた映画だが、実に深い。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画の割と早い段階で、マツケンと貫地谷しほりが出会う場面がありますね。 そこで、北千住駅を指して言うわけです「あそこから世界のどこにでもいける」と。 これは『家族ゲーム』でやった、「(マンションを指して)沼田君の家はあれですか?」と同種のギャグなんだと思うんですが、この映画のテーマの一つでもあると思うのです。 この映画は「線路が世界を繋いでいるのと同様に、人と人も繋がっている」という物語なのです。 (『家族ゲーム』でも一過性のギャグではなく、「人間の記号化」の象徴的なシーンであった)

いやまあ実際、北千住はいろんな路線が乗り入れていて、意外に乗り換えに便利な駅なんだよ。 あと、瑛太が蒲田に住んでる設定だけど、蒲田もJRと東急が乗り入れてるし、かつて操車場があったじゃない。『砂の器』で死体が発見された場所ですよ。北千住と蒲田は鉄道的に重要な拠点なんですよ(<大嘘)。 貫地谷しほりがイイ女ぶった役を演じて一見似合いませんが、正解なんです。例えばこれが北川景子だったら、北千住なんて似合わないんですよ。ここは、「イイ女」じゃなくて「イイ女ぶった女」で正解なんです(<北千住の住民に怒られるぞ)。

この映画は、鉄道好きの面々が描かれますが、それぞれ楽しみ方が異なります。 この映画のいい所は、それぞれがそれぞれの楽しみ方を決して否定しないんですね。 とかくマニアという者は自分の楽しみ方が絶対で、時に「いかに自分が他者より(マニアとして)優れているか」を自慢したがり、本当に優れていない者に限って“他者を貶める(攻撃する)”ことで自分が優位に立とうとする。 ま、これはマニア道に限った話じゃありませんし、誰しもが持っている“人間の業”のようなもんでもあるんですが。

しかし、この映画は決して他者の「楽しみ方=価値観」を否定しない。 もちろん『電車男』みたいにオタクっぷりを誇張してあざ笑ったりしない。 おそらくこの話は、「他者(の価値観)を受け入れる」ことと「人と人が繋がっている」ことの物語だと思うのです。 もう少し突っ込んで言えば、「他者を受け入れることが人の輪につながる」という価値観を提示した映画なのではなかろうかと思うのです。

私は森田芳光の、特にオリジナル脚本の時の“時代感覚”を信じている。 「バブル経済」という言葉が生まれる前の1986年に発表の『そろばんずく』で、時代の狂乱を先取りした、あの“時代感覚”を知っている。 Windows98登場以前の1996年発表の『(ハル)』でネット時代の到来を予見した、あの“時代感覚”を目の当たりにしている。 『わたし出すわ』で、お金より価値のあるものを提示した、新たな時代の予見を信じている。 そしてこの映画で、「多様な価値観を許容する人と人の輪」という、これから来る時代を信じる。 森田芳光の遺言として。

(12.03.25 ユナイテッドシネマとしまえんにて鑑賞)

(評価:★4)

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