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[コメント] 病院坂の首縊りの家(1979/日)

シリーズ中最も異色な点は、事件や犯人よりも金田一耕助本人に焦点が当たっていることにある(シリーズ中最も影が薄くとも)
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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つまり、こういうことだ。市川崑が観客に挑んだ最後の謎解きは、「金田一耕助はなぜ失踪したか?」ということだったのである。

非常に分かりにくい複雑な人間関係が事件の根幹に関わる部分で(だから映画は謎解きに向かないのだが)、且つ、今までのシリーズの犯人達は「愛」のために「家族」のために「犠牲的精神」で犯行を犯したが、本作は「自己保身」という動機がお話し的にダメダメなのだ。なのだが、そのお話し的にダメな「一個人の人生の恥部を晒す」ことこそ、金田一がこの仕事をさる動機の一つなのだ。

思い出してみるがいい。 これまでのシリーズ中、印象的な金田一の顔のアップには「事件解決」のきっかけがあったではないか。わけのわからんカット割でバババッ!と映し出される石坂浩二の顔を観て、我々観客は「あ、金田一はひらめいたんだな」と判断したはずだ。

ところが本作は違う。 ビートルズのジャケ写の如く半分影になった顔。その沈んだ表情のアップのままゆっくりとフェードアウト。カット割でヒラメキを表現してきた市川崑は、このワンカットで金田一の気持ちが引いていく様を描ききったのだ。

(市川金田一シリーズの中で)初めて依頼人を殺してしまった本作。初めて依頼人の過去を暴くことになってしまった本作。これでは探偵失格だ。いや、元々事件解決が遅いから探偵失格だったんだけどね。いずれにせよ、事件解決が人の幸せにつながることではないことに嫌気がさしたのだろう。

しかし世の中には事件があふれている。そこから金田一耕助は逃げ出すのだ。しかし草刈正雄演じる黙太郎(なんだこの名前?横溝正史は本当に人物名のセンスが無いと思うぞ)の存在が、第二の名探偵登場を予感させ、明るい希望を抱かせて終わる。

金田一耕助が、実は横溝正史が生み出したキャラクターではなく実在していて、横溝正史は金田一本人から聞いた話を書いていただけだ、という描写も含めて、最も異色な形で市川崑は自ら生み出した「市川金田一」という唯一無二のジャンルに終止符を打ったのだ。・・・ってトヨエツ版作るなよ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)Myurakz[*] 直人[*] ユキポン Shrewd Fellow[*]

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