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[コメント] 奇跡のリンゴ(2013/日)

中村義洋じゃなかったら絶対観に行かない題材だったんだが、観てよかった。過剰過ぎない誠実な映画。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







縁あって、中村義洋監督の話を聞く機会が何度かあった。その一つに、大学生の自主映画上映会の審査員に中村監督が来た時があって、お手軽に撮影を済ます学生たちに彼は苦言を呈した。「もっと努力しろ」という例として、『奇跡のリンゴ』の撮影エピソードを話した。

撮影3ヶ月前、山崎努に出演をオファーした際、「準備期間が足りない」と言われたそうだ。「3ヶ月で準備できないってどういうことよとも思ったが、それだけ時間をかけて役作りをする人なんだ」と。 また、初めて久石譲に音楽を付けてもらったが、「大御所だからチョイチョイと仕事するのかと思ったらものすごく時間をかけた」そうだ。台詞の間に音符を置くような細かい作業をして、「俺なら2,3時間で済ませちゃうような音付けを数日かけてやった」と話していた。 ベテラン名優も映画音楽の大御所も大変な努力をするのだから、「いいものを作ろうと思ったら手を抜くな。努力を惜しむな」という話だった。

おそらくこの話はこの映画にも通じるのだろう。

阿部サダヲ演じる主人公は、合理的な人間で、研究好きで、アイディアマンである。 しかしそれは全て失敗する。小手先の技術、彼が頭で考えたものは失敗する。彼を成功に導くのは、「お手軽」な手法や技法ではなく、努力の果て、失敗でボロボロになった先に出会った原始的な“偶然”なのだ。

中村監督は、トリッキーな描写も過剰な描写もせず、主人公の努力と失敗を実直に積み重ねていく。 私は中村監督を「いろんなことが分かっている監督」と評しているのだが、この映画に必要なのは「誠実さ」だと判断したのだろう。この映画はとても誠実だ。 ストーリー自体に読み解くべき物語は見当たらないが、誠実であること、ひたむきであることの美しさを知ったよ。だって俺、舌先三寸の人間だから。

(13.06.23 ユナイテッドシネマとしまえんにて鑑賞)

(評価:★4)

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