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[コメント] リバーズ・エッジ(2018/日)

岡崎京子とセイタカアワダチソウが俺の邪魔をする。なぜ今?行定は90年代作家なのか?
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







あたし達の住んでいる街には河が流れていて

それはもう河口にほど近く

広く、ゆっくりよどみ、臭い

河原のある地上げされたままの場所には

セイタカアワダチソウがおいしげっていて

よく猫の死体が転がっていたりする

この有名な書き出しでも出てくる「セイタカアワダチソウ」。 押井守もOVA『御先祖様万々歳!』(1989年)で取り上げた、戦後から徐々にススキを駆逐しながら大繁殖した外来種。言わば、セイタカアワダチソウと日本の高度成長期はオーバーラップするのです。今は東京の河岸が整備された結果(なのかどうか)セイタカアワダチソウの猛威は一段落しているそうですが、それがかえって80年代、90年代の「成長に疲れた日本」を象徴するアイテムと化す結果になったのです。 まずこれが、私の気持ちをざわつかせる。現代に翻案してないんだ・・・。

岡崎京子という人は、日本サブカルチャーの歴史を語る上で欠かせない重要人物です。 (私はほとんど読んでおらず、その重要性は後に知ったのですが)内田春菊、桜沢エリカなんかと同時期に、タブーに切り込み、一つのカルチャーの扉を開けたのです。 いや、最初はただのエッチな女性漫画家的な見られ方をしていた気もしますが、その作家性の高さは一部で評価されており、後に確固たる評価となっていきます。いまだにファンが多く、二階堂ふみ自らが「この役をやりたい」と言い出したというのも分からんではない。

原作は1994年頃。バブル崩壊。祭りの後。地上げされたままの場所に生い茂るセイタカアワダチソウ。成長に疲れた日本。まるで河の終焉。広く、ゆっくりよどみ、臭い。そして、生きる実感のない若者たち。 そんな時代の空気を、岡崎京子は“青春”と“性”や“死”を掛け合わせて切り取った。これは言わば「終末論」なのです。

ただもう、四半世紀も前ですよ。

私は、バブル期(とその崩壊)は、実はバブルが弾けたんじゃなくて、地殻変動だったと思ってるんですね。 「泡がはじけちゃった」レベルじゃなく、破綻する銀行が出てきて金融再編が起きたわけですよ。クリスマスが家族でケーキを食べる儀式から恋人達がデートする日になった。少女漫画なんて生ぬるいもんじゃないガチで描く“性”。根底から時代が変わったんです。ラブレターごときで大騒ぎしてた『青い山脈』なんて、もはやファンタジーですよ。

だけど、デジタルネイティブが闊歩する今、また地殻変動が起きてると思うんです。 Google、ユニクロ、Amazon、SoftBank・・・銀行再編?旧財閥系?何それ?クリスマスよりハロウィン。(ラブ)レターじゃなくて(もはや電話でもメールでもなく)LINE(今時の高校生はLINEすら使わないらしい)。は?家電(いえでん)?そういう時代なんですよ。公衆電話で「○○君いますか?」なんて、もはや時代劇ですよ。

なぜ、今更、岡崎京子?

たしかに、岡崎京子原作を現代に置き換えたら失敗するでしょう。彼女の(少なくともこの)作品の良さは時代の空気を切り取ったことにあり、時代と不可分だからです。行定は馬鹿じゃないから、そこは分かっている。 だから(おそらく映画オリジナルの)セミドキュメンタリーのインタビューを挿入したのでしょう。現代の若者と地続きであることを表現しようとしたんだと思います。私に言わせれば地殻変動前の別世界なんだけどね。

岡崎京子は、「生きる実感のない若者たち」を描くことで、「成長に疲れた日本」という時代の空気を切り取った。 だけどこの映画は、この若者たちに「生きること」という普遍性を見出そうとしているように思うのです。 そういう新解釈が成功する場合もあるけど、この映画はどうかなあ? “閉塞感”という点は、今と当時の若者たちは共通の感覚を持っているのかもしれませんが、私にはリアルに見えないんだよなあ。どうしても「時代劇ファンタジー」に見える。二階堂ふみの裸体ですら作り物に見えちゃう。 それもこれも、岡崎京子という“時代”の作家とセイタカアワダチソウ、そして私の世代(年齢)のせいなんですけどね。

この映画を楽しんだことは楽しんだんですが、やっぱり映画は時代の鏡であってほしい。岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』みたいな映画が観たい。 なんかもう行定は何を撮っても90年代に見えてきた。このままじゃ「何を書いても70年代」の荒井晴彦みたいになっちゃうぞ!

(18.02.18 ユナイテッド・シネマとしまえんにて鑑賞)

(評価:★3)

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