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[コメント] カツベン!(2019/日)

結果、『雄呂血』が一番面白い。それも必然。いや、それも計算のうち。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







劇中、永瀬正敏が言うんです。 「余計な説明はいらない」「観れば分かる」「写真(映画)がなければ活弁は成立しない」

ところが、獄中のカツベンはまるで講談。写真抜きで活弁を成立させるのです。 まるでこのシーンのために全体が構成されていたかのようです。

一方、エンディングは弁士のいない『雄呂血』が流れます。 「日本には真のサイレントがなかった」という稲垣浩の言葉を挟んで、真のサイレントを魅せるのです。 劇中劇のサイレント映画は全て新撮だそうですが(草刈民代や上白石萌音のカメオ出演も楽しい)、『雄呂血』だけは正真正銘の本物。いやもう『雄呂血』は何度観ても滅法面白い。

実は周防正行という人は、村上春樹、尾崎世界観と並ぶ、我がスワローズ信者の代表格なんですね。基本、我がスワローズファンはインテリしかいない。 そんな周防監督は「好きすぎて、野球は映画の題材にしない」と公言しています。 そんな周防監督が「映画」を題材にしたんです。 じゃあ何かい?アンタは野球ほど映画は好きじゃないのかい?と。

ところがこの映画は、『ヒューゴの不思議な発明』的な『映画に愛を込めて』ではなかったのです。 僧侶修行(『ファンシイダンス』)、大学相撲部(『シコふんじゃった。』)と同じパターンで、「弁士」という未知の世界を描いた作品だったのです。 プロデュース作『がんばっていきまっしょい』(高校ボート部)も含め、「未知の世界」における「若者の成長譚」という原点回帰にすら思えます。

(実はその後も決して手慣れた世界を描くことはなく、常に「未知の世界」を徹底的に取材して丹念に描きつつエンターテインメントに昇華させる姿勢に変わりはないのです。ただ、『Shall we ダンス?』以降は、「若者の成長譚」よりも「自身の世代の物語」が多くなっている気がします。)

前作『舞妓はレディ』辺りから、「消えゆく文化(日本文化)」を裏テーマとして、現代的エンタテインメントに織り込もうという意図が見えます。 それが「古き良き時代を描いたノスタルジー映画」と捉えられてしまう要因でしょうが、この映画、それだけじゃないんですよ。とにかく予告が下手。

(19.12.15 ユナイテッド・シネマとしまえんにて鑑賞)

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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