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[コメント] 鵞鳥湖の夜(2019/中国=仏)

映画が映画らしい熱を帯びていた時代を彷彿とさせる「映画の濃縮汁」みたいな映画。古臭いけど若々しい。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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私はこの監督の前作『薄氷の殺人』をそれほど評価していないというか、実は文字通り印象が薄いんです。こんな美人女優グイ・ルンメイですら、本作で再会するまで丸5年も忘れてたくらい。 たしか、黒沢清とかオリヴィエ・アサイヤスが評価していて「実際アサイヤスっぽい」と思った記憶があります。 映像は面白いけど話が薄い印象で、「中国ミステリーは発展途上」という話を書き、「話の面白さが伴ったら凄くなるかも」と書いた覚えもあります。

でもこの『鵞鳥湖の夜』は、話の面白さが伴ったように思います。 実際、今、中国ミステリーは熱いらしいですぜ(SFも中国が熱いらしい)。 それにこの監督に対する私の印象も180度変わりました。

前作を観た印象は、前述した黒沢清やアサイヤスに似て、客観的で冷静な(悪く言えばスカした)作風だと思っていました。 ところが、この映画の印象は「ごった煮」。

黒沢清はベルナルド・ベルトルッチや鈴木清順を、瀬々敬久はミケランジェロ・アントニオーニやタランティーノや増村保造を引き合いに出し、またある者はヒッチコックだゴダールだウォン・カーウァイだと、観る者の「映画脳」を刺激してやまないようです。

実際私も思ったんですよ。

映画は、土砂降りのシーンから回想に移行します。 これはもう黒澤明『羅生門』ですよ。そしてラストでワラワラと刑事が犯人に詰め寄る様は『天国と地獄』を彷彿とさせます。 影の使い方はヒッチコックというより『第三の男』。動物園は『エイリアン』。 そして全体は、若い頃のチャン・イーモウを思い出させます。 そうなんです、映画が若々しいんです。古臭いけど若々しい。 もっともこれは、黒沢清が「熱気があり若々しい」と評したことから、はたと膝を打っただけなんですけどね。

二人でそばを食いますね、ムシャムシャと。なんなら女の分まで食い始めますね。ムシャムシャ。この時、男は「生きたい」と思ったんじゃないかと思うんです。それまでは捕まる気でいたはずです。でもここで「生きたい。逃げたい」って思っちゃった。そう思った瞬間、「やっぱり逃げない?」と言っていた女が戻ってこない。 男と女の想いがすれ違ういいシーン。私はグッときたんです。

それと、あのビニール傘ブシューね。あれはやりたいよね(<どこで何を?)

(20.10.11 新宿武蔵野館にて鑑賞)

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] ゑぎ[*]

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