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[コメント] おらおらでひとりいぐも(2020/日)

沖田修一の『野いちご』。これは哲学。六角精児ほど「どうせ」が似合う俳優はいない。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







前作『モリのいる場所』もそうですが、43歳の‎沖田修一、だいぶ老成した印象です。 でも、イングマール・ベルイマンが『野いちご』を撮ったのが39歳、黒澤明が『生きる』を撮ったのが42歳だと思うんです。 年寄り映画(?)という括りが適切かどう分かりませんが、「不惑」とはよく言ったもので、40歳代に人生を悟るもんなんですよ。ちなみに椎名林檎40歳のコンサートツアーのタイトルは「不惑の余裕」でしたけどね。 私の経験では、「40歳代で人生を悟ったつもりがまだ悟ってなかった」と50歳代で悟ることになるんですけどね。余談ですが、この40歳代での(一時期の)悟りを経験しない人がキレる老人になるんだと思います。

哲学的で大変難しい映画だと思います。 私は「ないものねだりの物語」と読み解きました。

田中裕子は言います。子どもの頃、フリフリのスカートが欲しかったんだと。 新車を入手しますが、新車に乗ることはありません。 音信不通となった息子の「役に立ちたい」と思ったのに違いありません。それも「ないものねだり」。

「自由に生きたい」と田舎を捨てた彼女は、都会で「田舎」に出会い、気付けば「古い価値観」に縛られて生きたのです。「自由に生きる」ことも「ないものねだり」だったのです。 そして今、彼女はやっと「完全なる自由」を手に入れた身となりました。 それがこの状況だ、というのがこの映画です。 話し相手にさえ事欠く完全なる孤独。そしてある意味「祝祭」。

よく「食べる」映画でもあります。 上京した蒼井優先生はモグモグと蕎麦を食べ、田中裕子は、パンと目玉焼きを朝食に、夕食はご飯とインスタント味噌汁を食します。そしてハイキングでの弁当(双子黄身の目玉焼き入り)。 食べずとも食材も多く登場します。 焼きおにぎりにするのでしょう、味噌を塗った大きなおにぎり。袋のままの節分の豆。娘が買い込んでくる食材(そしてまた持ち帰る)。

これらもまた「生きる」象徴なのでしょうか?私には答えが分かりません。

「これが生きるということなのか」という感想を持ったという意味では、私の中では『裸の島』と同じ。新藤兼人48歳の作品。

余談

双子黄身が出てくる卵割りシーンはどうやって撮ってるんだろう?あの黄身はCGなのか? あと、雪の街はどうやって撮ってるんだろう?あの雪はCGなのか? あと、段々畑みたいな墓地でカメラが切り返すんだけど、背後から撮る時はどこに足場を置いてたんだろう?他所様の墓石を踏み台にしてたのか?

(評価:★4)

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