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[コメント] タイトル、拒絶(2019/日)

この映画は、すべての女性に向けた渾身の応援歌だ。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「カチカチ山」って言ってますからね。 あの百円ライターは「火打石」なんですよ。カチカチ。

あのデリヘルは鶯谷辺りにあるんでしょうね。 まるで呉越同舟の泥船。チェンジで。

私が「樹木希林になれる逸材」と言っている大好きな伊藤沙莉。 主演ですが、実は狂言回しのポジションです。 カノウが物語を動かすわけではなく、むしろ振り回される側で、周囲が物語を構築していく。パターンとしては「ムーミン」です。カノウはムーミン。

舞台演劇的な話の組み立てですが、私は「フレームの外」を感じる映画だと思いました。 むしろ「フレームの外」を読み解くのが楽しくなる映画です。逆に、限定された舞台空間の戯曲故なのかもしれませんけど。

「ぶつけた」と眼帯した妹は言います。DVに決まっています。 「二人くらい殺したからさ。冗談よ」と姉は笑います。堕胎したに違いありません。おそらくそのうち一人は養父でしょう。

いや、楽しいは違うな。読み解けば読み解くほど、悲惨な状況が透けて見えます。 でも「カチカチ山」ですからね。 殺人、カニバリズム、焼殺未遂、溺殺と陰惨極まりない童話ですもの。

電車の音が聞こえます。 「どうせ山手線でぐるぐる回ってるだけ」と妹は絶望的に言います。 しかし姉は「でも逃げる」と笑います。 そう、鶯谷は山手線だけでなく京浜東北線も走っているのです。実際、背景音で一度だけ「南浦和行き」という駅のアナウンスが聞こえます。マジで。

何が言いたいかって?それが「希望」なんですよ。

電車は、この状況から抜け出したい登場人物たちの心象風景なのです。 自動車は事務所(待機所)とホテルの行き来しかしません。自動車じゃ抜け出せないのです。唯一、運転手の男の子とデキちゃった「手編みマフラー女子」が自動車の中で「現状からの脱出」を試みますが、その都度車外に放り出されます。

それでも二人が手を取って「歩く」エピローグが“希望”であり、あと一歩で投身自殺すれすれの場所まで登ってお腹が空くのも“希望”なのです。 そしてそれは、女性たちに向けた「渾身の」応援なのです。

劇団「□字ック」主宰の山田佳奈が2013年初演の同名舞台を自ら映画化した、ということらしいので、かなり「こなれて」いたのでしょう。 映画としては物足らない印象も拭えませんが、私は嫌いじゃない。いや、面白かった。

余談

野球のバットが2度出てきます。しかも、不穏です。 野球以外でこんなにバットが出てくるのは「ねじまき鳥クロニクル」以外私は知りません。 何の意味があって、どういう意図なのか分かりませんが、不穏です。気持ちがザワザワします。その先を想像したくないけど、その先を見たい気もします。

(20.11.23 新宿シネマカリテにて鑑賞)

(評価:★4)

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