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[コメント] 花束みたいな恋をした(2020/日)

恋人と一緒に観ちゃダメ!絶対!ところで押井守は明大前なんかで何をしてるんだ?
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







坂元裕二の脚本は、「カルテット」の「唐揚げレモン論争」に代表される丁々発止の会話に一つの特徴があります。そこに、あるあるとか価値観とか流行とかを放り込んでくる。 私は田中康夫の「なんとなくクリスタル」を思い出したんです。 筋ウンヌンではなく、膨大な「注釈」が必要だと思ったんですね。 この映画には、本、マンガ、映画、音楽に膨大な「実名」が登場します。もしかすると架空の名称だと思っている若者もいるかもしれませんが、実在する固有名詞です。

押井守を見つけた菅田君が「神だ!」と言い「犬好きで立ち食いそば好きの人」と称するシーンがありますが、あのおじさんは実在する犬好きで立ち食いそば好きの神なのです。 ちなみに私は喫茶店で加藤鷹を見たことがありますが、この情報は女性とは共有できませんでした(<どうでもいい話)。 てゆーかさあ、押井守を判別できたり菊地成孔のラジオを聞いてる女子大生って実在するのか?

こうして放り込まれた「ほぼウチの本棚」は、それなりに笑いはしましたが、正直シツコイ。正確には、男女二人の出会いのきっかけとして「趣味が合いますね」が多すぎて鼻白む。サッカーW杯やジャンケンのくだりなんかヒク。その考え方を聞かされて「分かる!」って言うのならいいんですけど、そこまで同じこと言うと逆に怖い。気味が悪い。

そもそもこの映画、恋愛映画の体で売られていますが、キラキラキュンキュンした物を求めたら痛い目に合います。 この映画は「リアルな破局映画」です。 オードリー・ヘプバーン『いつも2人で』と同じ。

事件や事故、難病で余命短いとかいう劇的で分かりやすいフィクションは起こりません。むしろその方が「他人事」で気が楽なのに。 ただただリアルに男女がすれ違っていく過程が丁寧に描かれます。ガチでリアルに身に覚えのある「分かれる理由」は、痛くって仕方がない。 映画館を出る時に「面白かったね」と話している脳天気なカップルがいたけど、こいつら絶対お揃いのタトゥー入れちゃうタイプだぜ、後先考えずに。

社会人として疲弊した菅田くんが「パズドラしかやる気が起きない」って言うんですよ。なんて悲しい台詞。スマホゲームは頭を使わずに中毒性しかないからタバコより人体に悪影響だと思うんですが、それはさておき、この映画を菅田くんで切り取ると「青春が死んでいく物語」とも読み取れるのです。 実際、アート仲間の先輩が死にます。これは、その死に対する男女の受け止め方の差を表現するエピソードだけではなく、菅田くんの「青春の終わり」の暗喩でもあるのです。

一方、有村架純も死に触れます。読者だったブロガーの死です。 おそらくこの辺で、彼女は「ラーメン食べ歩き」を止めているはずです。 これは、彼女がネット世界から現実世界での恋愛に移行したポイントだと思うんです。

「別れたくない」と男は言います。 なぜなら彼は、二人の生活のために自分の青春を殺したのです。 ここで別れたら、自分を殺した意味がなくなる。自分の人生そのものを失うのです。

一方、別れ話を「ケータイの解約」に例えられる女性は現実的です。 有り体に言えば、彼女はケータイの解約を申し込んだのに、別なプランを提案されたわけです。なにそれ?と思ったとしても不思議はありません。

これが男と女の違いなのでしょう。 男は過去の恋愛を引きずり、おそらく女性は乗り越えて(踏み台にして)成長するのです。 もしかすると、清原果耶のクダリで泣く二人の涙は、男と女で意味が違うのかもしれません。

そういや、前述した脳天気カップルで「面白かったね」と言ってるのは男の方だったな。 いつまでもカレーとハンバーグが好きで少年ジャンプ読んでる「成長しない男」だぜ、きっと(<根拠のない悪口)。

(2021.01.29 吉祥寺オデヲンにて鑑賞)

(評価:★3)

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