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[コメント] DUNE/デューン 砂の惑星(2021/米)

ナイーヴな御曹司が戦闘女子に恋をする異世界ラノベ。1万年経っても争いの絶えない世界に失望する。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







どういうわけだかリンチにもホドロフスキーにも縁がなく、このままだとドゥニ・ヴィルヌーヴとも無縁になりそうだったので映画館に足を運びました。DUNE小話。

この手のいわゆるハリウッド大作を最近あまり観ないんですよ。壮大なスケールの話よりも『君の名前で僕を呼んで』的な私小説の方が好きなもんで。シャラメ小話。

アジア系の医師役が誰か分かる?というヨメの問いに「土屋嘉男だろ?『七人の侍』の。嫁をとられた役。」「『牯嶺街少年殺人事件』の少年だって。」「ええっ!」「それに『黒衣の刺客』で狙われる官僚。」「ええっ!刺したり刺されたり大変だな。」これは何小話だ?

教母がシャーロット・ランプリングで驚きました。そういやリンチ版はシルヴァーナ・マンガーノでしたね。大女優担当パートなのでしょうか。 そういや爆笑スティングの役はどこへ消えたんだろう?

この映画、シャラメ君が直接「手」で自然に触れます。 草花に触れ、水に触れ、砂に触れる。そしてその「手」が苦痛に耐える。 いずれ世界を救うであろう彼の手は、痛みも美しさも含めて世界に触れ、世界を知っていくのです。 大味になりがちな話を、個人の物語に落とし込もうとする監督の意図なのでしょう。繊細で丁寧な演出に好感が持てます。

当然、シャラメ君の成長物語が一つの軸になります。 ところが成長しないまま映画は終わってしまう。 『ゴッドファーザー』で言えばマイケルが初めて銃を抜いた辺り。愛のテーマすらまだ流れていない。 そうやって突き詰めていくと、成長譚じゃなくてボーイ・ミーツ・ガールの物語に見えてしまいます。ナイーヴな御曹司が闘う女子に恋をする。まるでラノベ。華奢な文系男子だと思ってたら腕っぷしも強いのね、いやぁん。まるで少女マンガ。

そもそも、1960年代に書かれたこの話は今でも面白いのか?

1万年後でしょ? 人類の幼年期は終わってるはずなんだけどなあ。まだ利権争いなんかやってんの? どんな科学的進化を遂げたら「中世ヨーロッパ風」に逆戻りするかな? だいたい1万年後なんて雑な設定、もはや未来じゃなくて異世界だよね。

1940-50年代にアシモフが発表した「ファウンデーション」シリーズがそうですが、欧米って「ローマ帝国衰亡史」好きですよね。日本人の戦国時代or幕末好きと一緒。ちなみにゲームは三国志が多過ぎない?みんなそんなに三国志好きなの?

欧米人が大好きな「ローマ帝国ロマン」に、これまた欧米人大好き『オイディプス』的「父親超え」の話が加わります。典型例は『スターウォーズ』。 そして前述した男の子の「成長譚」。 おそらく今後考えられるのは「復讐劇」に「救世主」。もしかすると「自然との調和」も語られるかもしれません。 おそらく、小説「DUNE」自体が、SFというより「架空歴史スペクタクル」に近いのでしょう。読んでないけど。そしておそらく、複雑で強烈なスパイスで多数の読者を魅了したのでしょう。 でも結局、黒人やアジア人の前に「白人救世主」現るって話なんでしょ?以前ならいざ知らず、今となっては欧米人のベタな好みが詰まった話。やだベタベタするわ。

なので、少し前なら「こんな凄い映像が撮れるんだ!」と思ったかもしれませんが、今や「まだこんな話撮ってんの?」というのが正直な感想。

でもきっと、ドゥニ・ヴィルヌーヴはSF好きでSFへの造形も深いのでしょう。撮る画面(えづら)全てに「心得ていらっしゃる」感がある。 この星の衛星が二重惑星だなんてちょっと痺れる。 そういた意味では、この監督の「やりたかった!」意欲は感じます。 シャラメ君も観てて飽きないし、嫌いじゃない。

(2021.10.24 TOHOシネマズ日比谷にて鑑賞)

(評価:★3)

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