[コメント] オフィサー・アンド・スパイ(2019/仏=伊)
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日本版のツマラン予告を見た時はまさかポランスキーだと思わなかったんですよね。「逆転裁判」とか「スカッとジャパン」みたいなノリじゃないですか。絶対観ない系。
だいたい、日本の予告編では、ポランスキーのポの字も言わなければ、「『戦場のピアニスト』(2002年)の監督」のピの字も言わない。なんかもう今時のご時世柄「ロマン・ポランスキー」って言っちゃいけない雰囲気なのか、なんなら放送禁止用語なのかってくらい、ポランスキーって名前を出さない宣伝だったように思うんです。
でも、この映画のポイントは「ポランスキーの映画」ってことだと思うんです。
こんなこと書いたところで、ポランスキーを知らんとポカンですからね。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のディカプリオの隣人とか言っても誰も分からない。 シネスケは今更な説明不要で助かるわぁ。
ゑぎさんがご指摘された通り、原題「J'accuse」は、映画本編中の日本語訳で言うところの「私は告発する」という意味なのでしょう(アベル・ガンスまでは気づきませんでした。さすがです)。つまりこの映画、ポランスキーの「私は告発する」だと思うんです。
ユダヤルーツの彼が、『戦場のピアニスト』と並ぶ時代劇で「ユダヤ人迫害の歴史」を「告発する」作品。実際私も、ユダヤ人迫害をナチスドイツあるいはヒトラーに「矮小化」していた気がします。19世紀末のフランスで、これほど国民感情がユダヤ嫌いだったとは知りませんでした。今日のヨーロッパ、いや世界は、保守化・右傾化し、他民族を排除しようとする傾向があります。ポランスキーが「今」(実際には3年前)この作品を企画した意図は、告発と警告にあったのかもしれません。
よく言ってますけど、ポランスキー映画の主人公って、自分がいるべきでない場所=異世界に放り込まれて、逃げ回ったりジタバタしたりするんですよね。幼少期にユダヤ狩りから逃げ回った体験が影響していると言われますし、ナチスに追われるフランス生まれのユダヤ系ポーランド人という出自も影響していると思います。つまり彼は「異邦人」なんです。『ローズマリーの赤ちゃん』で、『チャイナタウン』で、『フランティック』で、そして『戦場のピアニスト』で、異邦人ポランスキーが描く主人公たちは、常に「よそ者」で「孤独」で「無力」で「彷徨う」ことしかできないのです。
この映画も基本は同じです。真実を追求したがために孤立し「よそ者」に追いやられていく。
(2022.06.12 TOHOシネマズシャンテにて鑑賞)
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