おそらく多くの人はムロツヨシと岸井ゆきのの『仁義なき戦い』という印象かと思いますが、実は「全員ヤバい奴」。むしろ『アウトレイジ』。「ヤクザな生き方をする人々」の映画です。

海辺で石を投げ続けるお爺さんや、バスケットコートのシーンで執拗に絡んでくる意味不明のおじさんが描写されてます。あるいは、画面には出てきませんがコールセンターの電話の向こうにクレーマーがいるはずです。 こうした遠い星から電波を受信しちゃったような人々と、この映画の登場人物、特にYouTuberたちは全員同類。無自覚にイカれた人々。

この映画は、まともな人間がまともじゃない世界に足を踏み入れる話とも言えます。そういった意味では『アウトレイジ』的ではありません。いまから多くの人がポカンとするようなことを書きますが、私は『竜二』だと思ったんです。正しくは「裏『竜二』」。ほら、ポカン。この映画のラストシーンが『竜二』に似てた……と勝手に思ってるんです。あれでスーパーが安売りでもしていれば完璧（＜そうか？）

『竜二』は裏社会から足を洗ってカタギに足を踏み入れる話で、まともじゃない世界からまともな世界に入って、生き辛さを感じる男の物語です。この映画の「ダークサイドに堕ちるムロツヨシ」は、まともな世界からまともじゃない世界に入って憂き目を見る。まるで竜二の裏返し。

しかし、映画は一方的な視点ではありません。

「映画や音楽みたいに後に残るものではない」「でも、残るものって偉いんですか？」

こうした「今」の感覚もきちんと描写している。

吉田恵輔の映画は途中で口に苦いものを放り込んできます。うげぇぇぇ！って思うんですけど、最後にはスッと飲み込めるんですよ。ただ単に後味が悪い作品とは次元が違う。

(2022.06.25 渋谷シネクイントにて鑑賞)