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[コメント] 江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間(1969/日)

乱歩とタブーがいっぱい。いろんな意味で。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







名画座ではちょこちょこ上映されてるんだがソフト化されていない作品で、どういうわけだかアメリカ発売版のDVDを鑑賞。正確には一方的に貸された。「ラストシーンで笑う奴がいるけど、あれは間違っている。あれは悲しいシーンで、笑うべきシーンではない」と言って貸されたけど、あれは笑うよなぁ。

まず、乱歩好きとして言いたいことを言うね。

「パノラマ島奇談」よりってことになってるけど、話は「孤島の鬼」。途中、無理矢理「屋根裏の散歩者」とか「人間椅子」も出てくるけど。で、「孤島の鬼」は「白髪鬼」という外国小説にインスパイアされていて、これは乱歩が翻訳してるの。瓜二つが入れ替わるって設定は「パノラマ島奇談」にあるんだけど、短編「双生児」でもやってるんだ。この映画では兄弟だから「双生児」の方が近いかもしれない。 あと、明智小五郎がさ、探偵じゃなくて、ただの推理マニアなのね。誰からの依頼でもなく「新聞広告に興味持った」とかで事件の真相に迫るじゃない?これ「二銭銅貨」を意識してるんじゃないかと思うんですよ。興味深いのは、「二銭銅貨」も「双生児」も「D坂の殺人事件」以前、つまり明智小五郎登場以前の短編なんだ。この映画、なかなかの“江戸川乱歩全集”ですよ。怪人二十面相や少年探偵団以外のね。

ふー、言いたいこと言った。

この映画、テンポ良く見せるので、ちっとも飽きずに観てしまう。冒頭から“見世物小屋的怪奇趣味”満載なんだけど、終わってみれば(というか終盤いきなり)広げた風呂敷を一気に畳む。意外にちゃんとした謎解きものだったりする。

ただ、人物の気持ちの流れがちっとも自然じゃない。 死人に成りすまして潜入する気持ちも分からなければ(原作「パノラマ島奇談」は財産を奪うという目的があったから成りすますのも自然なんだが)、「お母さん」だってさっき会ったばっかじゃん。だから笑っちゃうんだよ。極めつけは花火に飛び込む心理なんか一切分からん。

ま、人体や馬をくっつけて奇形を作る逆で、人体がバラバラになることで“精算”するという意図なんだろうけど。

余談

この映画が生まれた文化について書きたい。書きたいから書く。

前衛ダンスの祖である土方巽率いる暗黒舞踏が出演しているのは単なる見世物小屋的怪奇趣味だけの問題ではないように思える。 後の麿赤児の大駱駝艦、天児牛大の山海塾、果てはコンテンポラリーダンスにまで至る暗黒舞踏は、60年代サブカルチャー(アンダーグラウンドカルチャー)の持つ特徴の一つだと思っている。 その背景にあるのは、学生運動あるいは大島渚に代表されるような「権力への反抗」という社会的な流れがあったのだろうと考えるのです。 その根底には「日本の敗戦=価値観の大転換」があり、「大本営発表は嘘ばっかり」「権力は信用できない!」という心理なのではないかと。 つまりこの映画は、健常者を権力と見立て、それに対する反抗(テロリズム)映画なのです。たぶん。

また、娯楽の中心がテレビに移り、映画が映画でしか出来ないことを求めて大作主義に傾向していく中、この映画もまた映画でしか出来ない表現にチャレンジしたのかもしれない。それも“大作”という王道ではなく、アンダーグラウンドの方向で。

(15.02.21 DVDにて鑑賞)

(評価:★3)

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