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[コメント] しとやかな獣(1962/日)

これは狂言だ。この作品といい『ああ、爆弾』といい、日本の古典芸能とブラックユーモアは相性が良いらしい(<そうか?)
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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このマンションの一室こそが能舞台であり、金と色の欲にまみれた“獣”たちがこの舞台に出入りして「狂言」が繰り広げられる。 映画は能楽をBGMに始まり、部屋を片付けるその所作もまるで能のような動き。 若尾文子が謎の階段を登るシーンは、おそらく「橋掛り」(歌舞伎で言うところの花道)なのだろう。

「(終戦直後の極貧だった)あの頃に戻りたいか」の一言で、この一家の動機を全て語りきってしまう新藤兼人脚本の手腕。 そして、単なる動機付けだけでなく、この「終戦」を経た「今」という“時代感”に重要な意味がある。

伊藤雄之助と山岡久乃演じる夫婦には“ラジオ”から流れる能楽をバックに静かに佇むシーンが用意され、子供たち姉弟、言い換えれば「若い世代」には“テレビ”のダンスミュージックで激しく踊り狂うというシーンが用意される。 川島雄三の演出は猥雑さが持ち味だと思うのだが、「静と動」を用いて“世代”を描き分けるという見事な切れ味も見せる。そして、確実に“時代感”が意識されている。

映画は1962年制作。 日本は、まるで戦争なんかなかったかのように好景気を迎え、オリンピックなんか招致しちゃうぜ!ってなウハウハの時代。 この映画が皮肉っているのは、そんな時代の波に流されている“人間”という“獣”なのかもしれない。

私は、「真実から生まれたストーリー」なんかよりも、この映画みたいに「虚構の中から真実をえぐり出す」ような映画が好きだ。それがフィクションってもんだ。狂言ってもんだ。

(12.04.18 CSにて鑑賞)

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)けにろん[*] DSCH ぽんしゅう[*]

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